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『ハァ、ハァ…』 暗闇の中森を駆ける音が2つ。ひとつはまだ幼さを残す少女が逃げる音。そしてもうひとつは… 「逃がさないよ!!」 その少女を追う緑の髪の少年のもの。 「なんであんたが神託の盾から逃げるのさ!あんなに総長を慕ってたあんたが!」 『シンクには関係ないっ!』 そう言うと少女は足のホルダーに装着していた銃を引き抜きシンクと呼ばれた少年に向かって構える。 「あたるわけないだろ。くらいな!雷雲よ我刃となりて敵を貫け…何!?」 シンクがサンダーブレードを発動させようとしたときだった。 辺りに潜んでいたであろう、魔物が二人めがけて飛んできたのだ。 (チャンス…) 少女はその隙を逃がさないといわんばかりに技を発動させた。 『シャインバレット!』 「ちっ…」 シャインバレットと同時にどこからか飛んできた光が二人の間に落ちあたりを爆風が包み込む。 (ここまでか…) シンクは状況が不利と見るや引き返してゆく。 あたりが爆風に巻き込まれている森の開けた場所に少女の姿はなかった。 (……なんて、逃走劇を繰り広げてどんくらいたったのかしら) 夜も深ける頃。 アオは一人、森で野宿をしていた。 焚き火を焚き、武器の手入れをしながら少し前のことを思い出す。 少し前まで六神将といわれる組織の補佐という中々な立場に居た彼女。 しかしとある事件をきっかけにその組織から逃走するハメとなってしまった。 その道中、運悪くも元仲間であるシンクに見つかり、追いかけられたものの。 持ち前の逃げ足でここまで逃走してきたのである。 『はぁーーーーーーー』 長いため息を吐き、夜空を見上げたアオ。 『ん?』 アオが意識を手放す直前。 視界は眩しいほどの光で溢れていた。 「起…て!」 どこか、遠くから声が聞こえる。 それは、とても優しい声だった。 「起きて!!」 夢―ではない… アオは熱を出したときのように腫れて重い瞼をゆっくりと開けた。 (あれーーー?) アオは先ほど視界一杯に光が溢れたのを思い出した。 (そうだ…さっき光がおちてきて…その先が思い出せない…) アオはあたりを見回す。 冷たく透き通ったような藍色の空に、大きな月が浮かんでいる。その白い光のなかにぼう、と浮き上がるのは、まるで一枚の絵。 その景色は彼女が意識を失う前と少しも変っていなかった。 いや、人が、いた。 マロンペーストを思わせる長い髪は銀に輝き、サファイアブルーの瞳が濡れたようにゆれている。 髪に隠された右目も同じ色なのだろうか? それを確かめたくなる。 肌は月の光に負けぬほど白く、薄い唇は少し解けていて、微かに震えているようにもみえる。 『あなた…は…?』 呟くと、吊りがちの瞳が、安堵したかのように柔らかく、微かに下がった。 「よかった、無事みたいね。」 『あの、ここは…?』 ゆっくり起き上がりながら視線をめぐらすと、隅のほうに少しいじけたように座っている赤い髪の少年がこちらをみていた。 「さぁ…」 どうやらこの人にもわからないらしい。 「そういえば、どうしてこんなところにいるの?名前は?」 やはり、聞かれたか。素直に正体を明かすべきか、目の前の少女の服から神託の盾の関係者ということはわかるが、どこの所属かわからない以上は、名前だけでも十分かもしれない。 『あの、私、アオといいます。ちょっといろいろあってこの森に逃げ込んだんですけど、そのときに光が飛んできて…』 「こうなったってわけか。」 ずっと口を開かなかった少年が口を割ってきた。 「ったく、いい迷惑だぜ。ヴァン師匠を殺そうとした奴とこんなところに飛ばされるなんてな!」 『ヴァン…?まさか…!』 ヴァンという言葉を聞いた少女があわてだす。 『あなた、ヴァンと何か関係しているの!?』 「何だよ急に。ヴァン師匠は俺の剣の師匠だ!」 『そんな…っ、せっかくここまで逃げてきたのに…!!』 様子を見かねた少女が口を開く。 「あなたとヴァンがどういう関係か私にはわからない。だけど、私はヴァンの仲間というわけでもないし、どちらかというとヴァンと敵対している関係にあるから、そんなにヴァンを拒絶するあなたにとって私は害をなす存在ではないと思う…だから、落ち着いて。」 ね、と少女はつけたす。 「ヴァン師匠と敵対!?馬鹿言うな!俺は…」 「ルーク!!あなたが話すと話がこじれるからだまってて!」 少女がルークとよばれた少年に叫んでからアオに向き合い、こういった。 「ごめんなさい、紹介が遅れたわね。私はティア。そしてこっちの少年が…」 「ルークだ。」 いかにも機嫌悪そうにルークが言葉をつなぐ。 「あなたの名前、どこかで聞いたことがあると思うのだけれど・・・」 やばい。一応敵ではないとわかったとはいえ、ここで六神将にかかわっているとわかったらどうなるか。 『気のせいじゃないですか!?私、ただの一般人だしっ!』 「ただの一般人が森の中で倒れてるかよ!」 グサっ。痛いトコをつかれた・・・ 『確かにそうかもしれないけど』 「俺はお前らの正体がわかるまでぜってー信用しないからな!」 ルークがティアとアオに向かってどなった。 「ルーク!!それはいいすぎよ!」 ティアがルークの言動をたしなめる。 「だーっ、うるせー!うるせーっつうのっ!ちょっと黙れ!お前らが何言ってんのか、こっちはさっぱりだ!」 ティアとアオはため息をつくと、アオがティアに小声でたずねた。 『あの…、ルークさんって、ファブレ公爵の…?』 「えぇ。そうよ。でもかなりの世間知らずみたいで、海もさっき初めて見たとか、まぁ、あんな性格なのもなにか理由があるのかもね…。」 アオは胸の下で腕を組むように、ティアはあきれたようにして、二人は静かにルークをみた。 「………」 『………』 見つめるばかりで、何をするでもない。またそれが何とも居心地が悪く 「黙ってないで何とか言え!!」 ルークは怒鳴っていた。 するとティアは、あきれたように肩をすくめた。 「黙れって言ったかとおもえば、何とか言え、とはね。」 かちんときた。 それはそうかもしれないが、そんな言い方もないだろう。 こっちはわけがわからないのだから。 もう一人のアオっていうヤツもだ。 ただ静かにこいつと俺をみててなんも口出しをしねぇ。 その視線が妙に大人びててなんかむかつく。 「話はおいおいしましょう。あなた、何も知らないみたいだから。ここで話すのは時間の無駄だと思うわ。行きましょう、アオ。あなたにもあとでゆっくりと私たちのいきさつを話したほうがいいみたいだし。」 『あ、はい。それと、どこに向かいます?』 「そうね、とりあえず森を抜けましょう。話はそれから。」 『そうですね。』 そういうと二人はとっとと歩き出してしまい、ルークはあわてて二人を追った。こんな寒々とした、どこかわからない場所に置いてけぼりはごめんだ。もちろん、怖いわけではないけれど。 「おい!森を抜けた後、おれたちはどうするんだよ!!」 「あなたをバチカルの屋敷まで送り届けるわ。」 「どうやって!ここがどこかもわからないくせに!」 そう怒鳴るとティアは足を止めて手を上げ、崖の向こうを指差した。 「さっき見た海があるでしょう。とりあえず、この渓谷を抜けて海岸線を目指しましょう。街道に出られれば辻馬車もあるだろうし…かえる方法も見つかるはずだわ」 「ぬけるったてどうやって」 『耳を…すませて、みてください。』 今までルークに口をあまり開かなかった少女がルークに言った。 言われたとおりにすると、ざぁざぁという音がした。 『水音がしませんか?きっと近くに川があるんです。それに沿って下っていけば、海に出られるはず、です。』 「まぁ、そういうこと。」 ティアが言葉をつなぐ。 「へぇ、そういうもんなのか。」 ルークの関心したような様子を見て、さぁ、行きましょう。と声をかけた。一向は森のなかをただひたすら、歩いていった。 その間アオは、この人たちと行動を共にするメリットやデメリット、ヴァンや六神将との関係はあるのか、探っていた。 (今のところは…、安心できそう。) 微かな安堵とともに、煌々と輝く月を見上げた。 ……♪…… back ![]() |