君の世界に、沈んでいく


君の世界に、沈んでいく










冷たい風が頬を撫でて過ぎ去っていく。

深夜とも言える時間帯、しかも海沿いの田舎町。
当然道は真っ暗で道を照らす街灯の数は少ない。


そんな中を少女は臆する様子もなく一人歩いていた。


しかし家へと繋がる階段と反対側に繋がる階段、そして更に上へと真っ直ぐ続く階段の分岐点まで来た少女はそこで1度足を止めた。


「……………」
更に上へと続く階段と自宅の反対側の階段の先には幼馴染みともいえる二人の少年の家へと繋がっていた。

しかし今、彼女にその少年達との繋がりはなかった。

というより彼女から断ちきった、というのが正しいのかもしれない。


「あほらし」


ポツリ。
一言こぼした彼女は自宅への階段を登っていった。






















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「こんにちわー」

ある日の放課後。
岩鳶高校での授業を終えた私は男子校である鮫柄学園のプールに来ていた。

「おう、刹李。来たか」
ニッと笑って私の元へきたのはこの鮫柄学園水泳部現部長である、松岡凛。水着にジャージの上だけを羽織っているいつも通りの姿。

小学校の時よりの仲である彼は私の数少ない親友ともいえる存在であった。


なぜ他校のプールに私が来ているか。それは簡単な理由。






「………お前、また授業寝てたんだろ」

「そうだけど」

なぜ分かったのか

呆れ顔の彼に問えば更にその呆れの色を濃くした。

今は部活であって、今話すべきことはそんなことじゃない。
今日の私は飛び切り機嫌が悪いのだ

「寝跡。ついてる」

そう言って悪戯っぽくニッと笑った彼は私の、その寝跡がついているらしい頬にそっと触れた。
きっと私の心中なんてお見通しなんだ。

だからこそ、そんな言葉を選んだ彼。
「………凛」

なんかモヤっとした


「あーー!!凛先輩!!また刹李さんとイチャついてる!ダメっすよ!いくらラブラブだからって今はぶちょーとマネージャーじゃないっすか!」


せめて部活の間だけは俺らに夢見させてくださいよー


この威勢の良い叫び声は百太郎だな。

そう、感じパッと振り向けば案の定。


「ちわっす!刹李さん!その鋭い眼光!痺れるっす!」

「どーも、百太郎。最後の言葉はよく分からないけど」

元気よく挨拶してくれた百太郎に一応挨拶を返す。
機嫌がよろしくないせいか半分睨んでしまったらしい。

しかし通常運転の時でさえも目つきが悪いと言われる私。
百太郎は慣れてしまっていたのか、悪い方向には気にしていなかったらしい。

と、

「もーもーー!!てめぇ…」

凛が鬼の形相で百太郎の頭を鷲掴みにしていた


「いてててて!だって凛先輩が!刹李さんとイチャついてるんすもん!珍しく!!」
「あのなぁ!!」
「………」



「あ、刹李さん来てるー」
「おっ、んじゃそろそろ集まるか」


百太郎と凛の騒ぎに気づき、ついでに私の存在にも気づいたらしい部活のメンバーが私達の周りにワラワラと集まり始めた。

「ほら、凛。そろそろ百太郎解放してあげて。部活始めるんでしょう」
「……おぉ」




何故か不服そうな顔で百太郎を解放した凛は部活メンバーを見渡し今日の予定や連絡事項を伝えていく。


私はそれを隣で聞いて、凛の話の後に個別メニューや全体メニューの説明を加える。

つまり私が行っているのはトレーナーのようなもの。




中学を卒業かという時期。
家庭の事情やらで暇を持て余した私は、もともとは水泳をやっていたということがあり“そっち”方面への勉強を始めていた私。

適当に学校に通って、適当に単位とって。
適当に夜遅くまで街をフラついて。

飽きたらまるで私の存在なんてないかのような家に帰り。

そんな生活を繰り返していた。
そして高校2年の春。
まだ肌寒いと感じるくらいの時期にオーストラリアから帰国してきた凛と出会った。



そこからはまぁ、紆余曲折あり当時の部長さんに実力を買われた私は現在までこの鮫柄学園水泳部トレーナーとして手伝いをさせて貰っているのだ。


「……というわけで今日は岩鳶のヤツらが来るから合同練習。メニューは刹李から…」

そして本日の私が機嫌がよろしくない理由。それは

岩鳶との合同練習。



「……アップはいつも通り。ただ今日はせっかく合同だからメインはタイム計測で」

「「「はい!!」」」


威勢の良い返事が返ってくるもんだ。

「それじゃ、取り敢えずは解散。岩鳶が到着したらもっかい集合」


その凛の言葉にメンバーがアップへと向かい始める。久々の合同だ。どことなく皆の顔がウキウキしてる…ような。

「………はぁ」


それと対極に私の機嫌はどんどん下降していくけど


「…切り替えろよ」
「うっさいな…」

「アイツらは、お前に近寄ろうとしてるんだろ。だったら受け入れればいいのに」

「………凛には言われたくないね」
「ったく……」


「わっ!ちょ、何すんの!」

いきなりわしゃわしゃと私の頭をかき乱した凛。
おいコラ。

「そんなに睨むなよ。……でもまぁ、お前をそうさせてる理由も分かるし。だから俺がいんだろ。後で喚くなり怒鳴り散らすなり泣くなり…何でも受け止めてやっから。……取り敢えず今は機嫌悪くてもいいから仕事はしろよ。」

今は何をすべきなのか分かってるだろ


凛はそう言い残して、プールへと歩いて行ってしまった。


「〜〜〜!」


凛のロマンチスト!かっこつけめ!!

再開した時からそう。

凛は常に私を取り込んで、守ってくれるんだ。





受け止めてやっから





その言葉が、独りぼっちな私にとってどんなに救いであるか。

彼は分かってるのだろうか。



少しづつ凪の兆しを見せ始めた心を感じ、私もやるべきことをするために、プールサイドへ向かった















君の世界に、沈んでいく


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