「さぁて、いきますよーっ」


……シエル……

あたしの手を取ったアスナ。

その瞬間、ワッという歓声が周りからあがった。

……ギャラリーいたの忘れてた。


そんな中あたしにフルボッコにされたやつ……名前忘れたけど。そいつがよろけながら立ち上がった。

「見世物じゃねぇぞ!散れ!散れ!」

「おー、荒れてるなー」

ギャラリーに向かって叫び始めたそいつをみて、あたしの隣でブランシェが呑気に呟いた。

と、ヤツがゆっくりとあたしの方に向き直った。、

「貴様…….殺す…絶対に殺すぞ…」

その目つきはかなり座ってる。

『わーぉ。物騒』

SAOの感情表現はややオーバー気味ではあるけど、それを差し引いてもヤツの目に浮かんだ憎悪の色はモンスターのそれ以上。




………….とかキリトは考えてるんだろうな


「シエル……お前、ほんっと、肝が座ってるよな」

キリトがあたしの隣に立つ。

そしてもう一人。

あたしの手を取っていたアスナがスッと、あたし達の前に歩みでた。

「クラディール、血盟騎士団副団長として命じます。本日を以って護衛役を解任。別名あるまでギルド本部にて待機。以上」

アスナの声は凍りついた響きを持っていた。

そしてその中に押さえつけられた苦悩の色を感じた。

ブランシェも同じことを感じたらしく、彼がアスナの肩に手を掛けた。
と、アスナの体が小さくよろめきブランシェにもたれかかるように体重を預けた。

「……なん…なんだと…この……」


なんだか呪いの呪文みたいな言葉をブツブツ呟きながらこちらを見据えてくる。

気味悪いな。


「……シエル、」
『分かってるよキリト。だーいじょぶ』


どうせヤツは予備武器で斬りかかろうとかそんなこと考えてるんだろうということは予想できる。

でも、ヤツは自制出来たらしく大人しくマントから転移結晶を取り出して、グランザムに帰っていった。


『一昨日来やがれ!塩撒いてやる!』

転移光が消滅した後、広場には沈黙に包まれていたが、あたしの叫び声を合図にギャラリーが三々五々に散っていく。



「ごめんなさい、嫌なことに巻き込んじゃって」

やがてアスナがブランシェから一歩離れ、日頃のハツラツさが嘘のように抜け落ちた声で囁いた。

「いや、俺達はいいけど。特にシエルは何も気にしてないだろ」
『キリト。君はあたしをなんだと思ってるのかな?あたしだって気にすることくらいあるんだよ?雑魚って言われたとか、知らないとか言われたりとかねぇ、もう、プライドズタボロなんだから!』

「まぁまぁ、二人とも……。というか、アスナさん。そっちこそ大丈夫?」

ブランシェの言葉にアスナは気丈な、でも、弱々しい笑みを浮かべて見せる。

「えぇ。今のギルドの空気は、ゲーム攻略だけを最優先に考えてメンバーに規律を押し付けたわたしにも責任があると思うし……」

「それは……仕方ないって部分もあるんじゃないか?というか逆にアスナさんみたいな人がいなかったら攻略ももっとずっと遅れてたよ。シエルみたいにダラダラソロでやってるやつもいるし。」

『そーそー。だから、たまにはあたし達みたいないい加減な奴らとパーティー組んで息抜きくらいしたって、誰にも文句言われる筋合いじゃないでしょ」

ブランシェの後をついでやればアスナはポカンとした表情のあと、頬を緩めた。

「……ありがとう、シエル。じゃあ、お言葉に甘えて今日は楽させてもらうわね。キリト君と二人で前衛よろしく」

「いや、ちょっと、前衛は普通交代だろ!」
『なに、キリト?あたしじゃ不満なの?』

「そういうことじゃ、なくて……」
『んー?』

「おーい、二人とも置いてくぞ」

アスナと共に先を歩いていくブランシェがこちらを振り返る

『というか、お前、ちゃっかり前衛から逃げるなよ、このヤロー!!』













……キリト……


「ふるるるるぐるるるう!」

骸骨の敵が雄叫びをあげる。
恐ろしいほどの筋力パラメータを持った相手。

しかし現在前衛に出ているシエルはそんなものに臆した様子はなく、難敵を相手に一歩も引かない。

『ひゃー!変な声ー!あははははははは』

「油断するなよ!」

『はーい!』

俺の忠告も大して気にしていない、気の抜けた返事が返ってくる。

一応生死が掛かってるこのゲームで爆笑しながら敵と対峙するプレイヤーはシエルだけなんじゃないだろうか

骸骨の剣が青い残光を引きながら立て続けに打ち下ろされる。

《バーチカル・スクエア》

少し離れた所でもブランシェとアスナが、ペアとなって戦っているが、二人の視線を感じる。
……そりゃ、ハラハラするよな。爆笑しながら戦ってたら

同じく俺もハラハラとしながら見守る中、シエルは二つ名に恥じぬステップで全て避けて見せた。

クラディールの時も見てて思ったが、コイツ、スピードにステータスどんだけ振ってるんだ



『ひゃー!!あたしナイス〜!』

四連撃を躱され、骸骨が僅かに体制を崩した。その隙をシエルは見逃さない。

『さぁて、いきますよーっ』

未だ腰の鞘に収まったままだった愛刀を居合の姿勢で構えたシエルは、目にも止まらぬスピードで刀を抜き放った。

そして続けざまに3連撃。


そのまま身体を捻り骸骨の横に移動したシエルは、身体が流れるのを利用して、刀を横に薙ぎはらった。

『うーん。そろそろスイッチしよっかー?キリト、つまらないでしょー?』

ひょいひょい、と骸骨の反撃を躱しながらやはりどこか気の抜けた声でシエルがこちらに声をかけてきた。

「お、おう!」

同時にシエルが単発で強烈な突き技を放つ。
剣先は骸骨が持っていた金属盾に阻まれる。

その隙にできる一瞬の間。

俺は間髪入れず突進系の技で敵の正面に飛び込んだ。

シエルがブーツの踵を鳴らして軽やかに距離を取るのを確認した俺は、猛然と敵に打ちかかる。

俺が繰り出した《バーチカル・スクエア》は全てヒットし、HPを大きく削り取った。

…….といってもシエルが戦った分で既にイエローまで削られていたのだが。


さて、勝負を決めるべく俺は大技を開始する。

ちらりとシエルを見ればどうやら戦う気が失せたようで、ブランシェ達に『がんばれー!』だの『そこだー』だのと声援を送っていた。



俺が《メテオブレイク》の最後の一撃を叩き込めば、かつんと骨が断ち切られ、頭蓋骨が勢いよく宙に舞うのと同時に、残った体は糸が切れたように乾いた音を立てて崩れ落ちた。


『はい、お疲れー』

剣を収めた俺の背中をシエルがばしんと叩いた。

「……お前、向こうの戦闘見てたんじゃないのかよ」
『見てたよー。でも振り返ったらちょうど骸骨さんが崩れたから、あっ勝ったんだーと、思って』

「はぁ……」







ブランシェ達の戦闘も一息ついたようで、俺たちは先に進むことになった。


荘厳な回廊を抜ければ突き当たり。

そこには、灰青色の巨大な二枚扉が待ち受けていた

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