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♪ . . . : : 「おーい、雫遙。どこだー?」 「ここ、ここー!」 ドタドタと、廊下を走ること音と聴き慣れた声が本丸に響いた。 自室前の縁側でのんびりと、先ほど鶯丸が淹れてくれたお茶を飲んでいた私はその声の主に居場所を教えるべく声を張り上げた。 「だからどこに…って、ここか」 「うん。」 角から姿を現したのは鶴丸。 そろそろお昼ご飯になるらしい。 歩けない私を広間に運ぶために探しに来てくれたとのこと。 「全く君は…。以前にまして活発になってないか」 「皆んなが交代交代に色んなところに連れて行ってくれるからねぇ」 あの日。 気がついたら全てが終わっていた。 目を開けた時視界いっぱいに白が広がり、ついで様々な色が視界を埋めたことはまだ記憶に新しい。 呪いにより闇に心が囚われていた私を救うため、鶴丸がその血を私に飲ませ私は鶴丸の眷属となった。 元の目の色から金の目になっていたことには驚いた。 満身創痍な皆んなをなによりもまず手入れをすべく手伝い札をつぎ込んで治した。 そして皆んなを私の自分勝手な呪いによって苦しめたことを謝ろうとした。したのに。 「おっと、それはナシだ。俺たちは君のその加護に護られていたんだ。…だから、ありがとう」 鶴丸が私の唇に人差し指を、当てて優しい瞳で言ったのだ。 そして他の刀剣達が次から次に「ありがとう」と言う。 そのあといろんな感情がごちゃまぜになってわーわーと泣いてしまったことは後になって死ぬほど恥ずかしかった。 そんなこんなで今は本丸も、それを護る結界も、立て直しついでに私の心も徐々に回復し今は全開に近いほどに立ち直り始めた現在。 両の踵の上、丁度踝の高さにつけられた傷は完全に治ることはなく、傷跡が残っている。 どうやら今後もこれ以上良くなることも、歩けることも出来ないよう。 そんな私を気遣ってか、毎日色んな付喪神が朝から晩まで私の元を訪れては担ぐなりおんぷするなり抱きかかえるなりで本丸の様々なところへ連れて行ってくれるのだ。 それはこの、みんなでご飯を食べる時間も例外でなく。 そんな時は決まって鶴丸が迎えに来てくれる。 「ほら、行くぜ」 「うん。お手数おかけします」 私を抱きかかえようとかがんだ鶴丸の首元へ腕を伸ばせばすかさず引き寄せられる。 「ふふふ」 「何だ、いきなり」 抱きかかえられた腕の中。 鶴丸に抱きかかえられるのが一番安心する。 それは彼の眷属になったゆえなのか、はたまた私の胸を締め付けるこの感情ゆえなのかは分からない。 それでも、いいと思った。 「ううん。なんでもない。…ねぇ、鶴丸。」 「うん?」 首を傾げる彼。 いつもはどこか飄々としていてかっこいいのに、たまに見せるこんな表情。 そんな彼が本当に愛おしい。 「ありがとう」 伝える言葉。 大きく目を見開く鶴丸。 きっと、私を眷属としたことに悩んでいた。 でも、不謹慎かもしれないけど私は幸せだった。 鶴丸をじっと見つめていればふ、と力の抜けた笑みを浮かべた彼。 そしてお互いの鼻先を触れ合わせるように顔を近づけて来た。 「…これからは俺が君がどこにいても護る。探してやる。だから俺についてきてくれ」 細められた金の瞳が美しい。 あぁ、本当に幸せだ。 お互いに目を閉じたその瞬間、清光の呼ぶ声が本丸に響き渡った。 君を呼ぶ、笛に (愛してます、これまでも、これからも) (君を愛してる。なによりも。) back ![]() |