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「っ、ハァ…」

あれからどのくらいの時が経ったのか。
おそらく1週間は経過しているだろう。

自分以外の…他の刀剣達は傷ついていないだろうか。“彼女”が…雫遙が_愛し、大切に守ってきた彼らは無事だろうか……

自らの意思では動くことのない四肢を何処までも黒い紅に染まった畳に投げ出し思う。

____きっと雫遙は、深い、深い闇の中に居るんだろうなぁ

アレの術に嵌り、3振りとも自らの意思で身体を動かすことが出来ない中で恐らく自分を含めた全員が理解した。


____自分達が傷つくことを拒めば、彼女が傷つく。

そして仮に彼女の身体が無事であっても、彼女の心が壊れてしまうことに。

彼女が自分達があんな斬り合いをすることを望んでいる筈がない。
そんなことは判りきっていた。
それでも彼女には傷ついて欲しくなくて、3振りともそう思って、拒否をしなかった。
口が唯一自由であったのは自分達に選択をさせる為であったのだろう。

自分達の身の安全を取るか。
“彼女”の手以外による刀解は不可能であるという加護により癒えぬ傷と共に痛みを抱え続けるのか。


ならば答えは決まっていた。

果たしてこの選択が正しいものであったのかは誰にも分からない。
この後は清光や三日月がきっとアレをなんとかしてくれるだろう。
ならば自分はせめて、彼女の側に居たかった。
きっと自分が傷つく姿を見たくなかった。
誰よりも刀剣達が傷つくことに敏感な彼女の事だ。
辛かっただろう。
泣かせてしまった。
それでも。

「俺は…君に、傷ついて欲しくないんだ…」

光が閉ざされた部屋の中、触れる事の出来ぬ鉄格子の向こうにはうっすらと座り込んだ彼女の姿が見える。

全てを遮断した彼女はきっと、虚ろなんだろう。



それでもこの本丸がまだ、暗雲が立ち込めているだけで済んでいるのはここに顕現した付喪神と彼女との間にある絆の強さ故なのか。
それとも彼女の霊力と精神力の強さ故なのか。
それは分かりかねたが、今、彼女がここにいる。それだけで今は十分だった。


____雫遙なら大丈夫だ…。俺が、俺たちが顕現している限り、絶対に……。

腕を伸ばそうとしても、身体が思うように動かない。

____泣いて、…くれるなよ…


「雫遙…。また、…、皆んなと、…、笑い合えるさ。っ、だから…」

____完全に壊れてくれるなよ

愛しいその人が、どうか笑顔に戻れる日が来るようにと。

ただそれだけを願う。
自分が願いを、聞き入れ叶える類の神であったなら、何もよりも優先して雫遙の幸せを願うだろう。

そう思うのは主と唯一決めた故なのか。彼女が唯一愛すときめた存在故なのか。
きっとどちらもだろう。

今は抱きしめて、大丈夫だと言ってやれないがこうして口が動く限り声を彼女にとどかせることは出来る。
それが自分の今の役目だ。

黒き紅に染まった自分の衣。
雫遙は真っ白なその衣が好きだと言った。

「俺は…、ここにいる」

後は上手くやってくれるだろうと期待し、今は瞼を閉じることにした。


____後は任せたぜ…。


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