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三日月が、不気味な小刀で鶴丸を貫いた。

____やめて!!

言霊を操る私の力。
今、言葉が封じられているこの瞬間では彼らを助けることができない。

「…ッ!ッ……!!」
声が出ないことがもどかしい。

鉄格子の向こうで鶴丸がゆっくりと倒れていく。

「ちょ、三日月さん!?、ッ?なんだよ、これ…!」

清光が、鶴丸の元へ駆けて行こうとした。
しかし術に縛られ身体が思うように動かないのだろう。

彼もまた、私と同じくただ、見ていることしか出来ないようで。

どうか、清光は目を瞑っていて欲しいと、願うだけであった。

「っ、そうか……」

三日月も術を理解したようで、綺麗な顔を顰めながら小刀を見つめていた。

「すまんな、鶴や」

「さぁ、もっと、もっと、紅く、紅く!」

狂ったような声が聞こえる。

その度に三日月が小刀を振るい、鶴丸が紅く染まっていく。

鶴丸はこの部屋を訪れた時、既に重傷といえる傷を負っていた。
目を疑った。
どうして、と思わず言葉を発そうとしていた。

なのに。
まだ、彼は傷ついていく。
この足が動くなら今にでも駆け寄るのに。
初めの襲撃の時に、両の足の腱を傷つけられた為に動くことは出来ない。
この口から言葉を発せることができるのに。
いつの間にか掛けられた術によって、言霊で彼らを護ることが出来ない。

___もう、嫌だ。

「ッハハ、じいさん…手加減っつーもんを、…知らねぇのかい……」
鶴丸が膝をついた。

なんで、笑ってられるの。

「どうやら俺自身では加減できぬようでな」

三日月が“あの人”をちらりと見る。
“あの人”の表情はもはや狂気に染まっていた。
先ほど鉄格子越しに囁かれた言葉が脳裏をよぎる。




『ここの刀が貴女のために、と言ってあたしの言うことをきく姿に飽きちゃったの。…だから今度は貴女を守るために彼らが傷つくか。彼らを守るために貴女が傷つくか……。ちょっと見たくなっちゃって』




きっと彼らは術を通して理解している。

彼らが言葉で拒否をすればあの術は解ける。
私は傷ついてもいい。
だからどうか、拒否をして欲しい。

彼らが斬りつけ合う姿を見たくない。

「ッ、…、ッ!」

涙が頬を伝う感触。
視界が滲む。
それでも構わず鉄格子の向こうの彼らに私の意志が伝わるようにと、出ない声を絞り出す。

___届け、届け………!

「主…」

清光が今にも泣きそうな顔をしている。
ごめん、ごめんね、お願いだから。
彼らを傷つけないで。
私の手による以外では折れることのない加護が、今は彼らを苦しめている。

____なんて、自分勝手な呪いを彼らに…



「っ、泣かないでくれよ…。俺たちは、…俺は君の為なら…ッ!」

「鶴…」

「俺が、…身代わりに、ッなることで……。彼女を護れる、なら……いくらだって受けてやるさ…!」

膝を着き、それでも前を見て鶴丸が言う。
こちらに背を向けているため確証はないけれど。きっと“あの人”を睨むように見据えているのだろう。
“あの人”の顔が歪む。

「つまらない…!!つまらないつまらないツマラナイ!!」

「くそ…!」

「ハハッ」

「…!」

金切声と共に、今までより一段と大きく三日月が小刀を振るった。
三日月の悲しそうな顔。
傾き、倒れ行く鶴丸の背中。
何故か溢れる鶴丸の笑い声。
清光が、悔しそうに唇を噛み締める姿。


狂気と優越に満ちた“あの人”の、顔…。


なんで?

なんで、鶴丸は、清光は、三日月は…傷ついたの?

なんで、なんで……



『貴女のせいよ、…雫遙』



ワタシ、の、セイ…??


「ア、ぁ、….ア、、」

何も、見えない。

「アァ、…ア、」

「主!主!!」



嫌だ、もう、なにも…!

「すまん…」


違うの、貴方達は、ワルクナイ…!!
ごめんなさい、ゴメンナサイゴメンナサイ






『っ、泣かないでくれよ…。』








「ッ、ああああああああああああああ!!」




プツリ。

全てが、消えた。


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