♪ 「………それで、こんなところで何用かな、審神者殿?」 連れてこられたのは真の主が閉じ込められている部屋。 7畳程の部屋の真ん中で区切るように鉄格子が嵌められ、その奥に真の主である雫遙が閉じ込められていた。 雫遙は鉄格子越しに俺、清光、三日月、そして偽りの審神者の姿を視界に映すと、何かを言おうと口を開いた。 しかし術を施されているのか、言葉が発せられることは無かった。 「………ッ、ア、………、」 術を込められている鉄格子は俺たち付喪神の力を持ってしても触れる事も、破壊する事も出来ない。 何かを訴えるように、口を開いては掠れた空気の音を発する雫遙をただ、歯痒い思いで見つめることしかできなかった。 「…ッ!」 それは清光も同じようで、俺の隣で俯き、きつく唇を噛み締めている。 俺はアレと言葉を、交わすのは御免だったがいつまでも雫遙のあんな姿を見ていることが辛く、逃げるようにしてアレに問いかけた。 「………あぁ、まだ、まだこんなにも精神を保っているなんて……。ねぇ、いつ壊れるの?」 アレは俺の方を肩越しに振り返り、不気味な笑みを浮かべると鉄格子に近づき、雫遙の顎を持ち上げた。 「…ッ!!」 その瞬間、俺の身体が怒りで震えるのが分かった。 傷なんてどうでもいい。 アレを、………殺す!! しかし三日月が俺の前へと腕を伸ばし、制した。 「止めるな三日月!!」 「鶴や、落ち着け」 「だけど!」 俺と同じく刀を抜こうとした清光も三日月に食ってかかる。 と、 「さぁ、はやく、壊れて?」 そんな言葉とともにアレがこちらを振り返った。 その瞬間、俺たちは思わず身構える。 ゆっくりと近づいてくる、アレ。 手にはいつの間に持っていたのか、不気味な一振りの小刀。 鉄格子の向こうで雫遙が嫌々をするように首を振っているのが見える。 _____何だ…?何をする……? アレが三日月の前に立つ。 そして不気味な小刀を三日月に持たせた。 眉を潜める三日月。 距離を取ろうとする俺と、清光。 「!?」 その瞬間、俺と清光の腕を掴み、アレが一気に迫ってきた。 「ねぇ……。あたしの言うことを、きいて?」 その言葉を皮切りに、身体に違和感が訪れる。 まるで自分のものでないような感覚に陥った。 「清光は……そこで、見ててね?…鶴丸は…そう、ここに立って?」 部屋の入り口に清光、そして鉄格子の前に俺を立たせ、最後に俺の眼の前に三日月を立たせたアレ。 逆らいたいのに、逆らえない。 「……これは」 三日月がポツリと、眉を潜めたまま呟いた。 「…ッ、……ァ、、!!」 俺の後ろでは雫遙が鉄格子を掴み、何かを叫ぼうと必死に口を開いている。 「一体何をする気だ…?」 「そんなに怖がらないで?貴方達は決して、壊れることはないのだから。……壊れるのは…そこの煩い小娘だけ」 パチン アレが指を鳴らした。 「鶴!!」 「鶴丸さん!!」 三日月と、清光の声が聞こえた。 「アハハハハハハハハハハハハ」 耳障りな、アレの声が聞こえた。 「…ッ、ッ、!!!」 愛しい、主の、泣き叫ぶ声が、聞こえた。 back |