――キバナのどこが好きなの?
 バウタウンのレストランでランチを楽しんでいると、ルリナは私をじっと見つめてそう質問をしてきた。昼時のお店は人が多くガヤガヤと雑音が多い。人気店なここは尚更でパスタを巻いていた私は質問に手を止めて、アイスティーの入ったグラスを持ち考えてみる。うーん、キバナの好きなところ。付き合ってもう5年程になるが、未だに仲が良いと自負している。そんな彼の好きなところはとしばらく頭を捻り考えたことを指を折りつつ、ルリナに伝えていくことにした。

 まずは背が高いでしょ。スタイル良くてどんな服でも似合っちゃうの。次に良い匂いがする。香水なんて付けてないって言ってるんだけど、ものすごく良い香りなの。それと話しかけると絶対に笑顔で振り返ってくれる。だからついつい用事が無くても話しかけちゃう。あとはー……。
 と、言いかけて私は1度口を噤む。ルリナは嬉々として語っていたのにどうしたと不思議そうだった。彼の長所であり、私からすると短所でもあることだから、正直に彼女に言うかを迷ってしまう。難しい顔をして黙ってしまった私に、どうしたのとルリナが催促してくる。言うしかないか。私は観念すると渋々思っていたことを口にする。

「誰にでも優しい。本当に、誰にでも」
「なるほどね」

 心の狭い女だと思われただろうかとルリナの顔を盗み見ると、彼女は納得した様に相槌を打っていた。どうやら思う節があるらしい。彼女にも私の気持ちが理解出来たのか、確かにそうねとアイスコーヒーをストローで回しながら私に同意する。引かれなかった様でほっとした。かといって、その愚痴を彼女に言う気にはなれなかった。
 どう考えても私のわがままで子どもの様な嫉妬だ。そんなものは10代に置いてこなければならなかったのに、私は未だにがっちりと持ち続け懐で飼い続けている。どうにかしないとと思っていても、どうにもならなくて困っているのだ。先ほどまではあんなに笑顔で食事をしていたのに、急に苦い顔をしながら手を止めた私にルリナは気を遣ってくれたのか、これ美味しいわよと自分のプレートに乗った魚を勧めてくれる。私は頬を緩めて短くお礼を言うと、遠慮なくフォークでこんがりと焼かれた魚を掬い取った。

 午後の分の仕事を終え少しだけ残業して家に帰ると、部屋に明かりが灯っていて彼が居るのだと自然と足が速くなる。私よりも断然忙しいはずなのにたまにこうしてサプライズの様に居てくれると、たったそれだけで1日分の疲れが吹っ飛んだ。鍵を開けてドアを開け、私は早急に靴を脱ぐと明かりのついた部屋のドアを開きただいまと中に居る彼に話しかける。いかにも急いで帰って来ましたと言わんばかりに息を荒げている私に、キバナは少し驚いてから笑顔を浮かべておかえりと返してくれた。

「お疲れ。夕食用意してみたけど、食べられそうか?」

 そう言われてテーブルを見ると作り立てなのか、美味しそうに湯気をあげている料理がずらりと並んでいる。作ったのとそれらを見た後に訊くと、ちょっとだけなと彼は笑った。はぁ、好き。十中八九、私の為に作ってくれた料理だった。私は最後の料理を運び終えたキバナに後ろから思い切り抱き着くと、私の彼はため息が出るほどに完璧な恋人だと幸せを噛みしめるのであった。

 手を洗い軽くうがいをして、堅苦しい仕事着から部屋着に着替えると早速キバナの待つテーブルの反対側に座る。用意されたご飯はどれを食べてみても全てが美味しくて、口に運ぶ度に私はなんて幸せ者なのだと嬉しさに浸る。食事の最中はワインを飲みながらキバナと色々なこと話をした。内容は今日あったことの報告ばかりだったが、その中でも特にキバナのジムトレーナーとのトレーニングの話は聞いててドキドキした。今でこそバトルから離れてデスクの前で仕事をしているが、昔はチャンピオン目指して私も頑張っていたなと隣で同じく食事を楽しんでいるシャンデラを見る。私は結局ある程度まで行くと才能がないことに気が付いてしまったので、ジムチャレンジは10代の後半で諦めた。しかし、今でも仕事を頑張りながら夢を目指し突き進むキバナは私の憧れで、彼の仕事の話を聴くのはすごく楽しい。
 ――が、当然、彼は楽しくても私にとっては楽しくない仕事の話もある訳で。

「今日、ファンの子がお菓子くれてさ」
「…………へぇ」

 明らかに低くなった私の声に、彼は気付いただろうか。浮かべた笑顔をそのまま貼り付け、私はあまり気にしていない風に振舞う。食事をする手を止めずに、いつもの様に彼の話に相槌を打つ。やれ手作りだのどこかで買っただの、やれパティシエ目指してるだのと私の心が狭くなる情報ばかりが飛んでくる。大好きな彼がこうして誰かに好かれるのは大変嬉しいし応援しなくてはならないことなのに、それをどこかで嫌だと思っている私はなんて嫉妬深い女なのだろうかと自己嫌悪に陥る。なんだか味がしなくなってきたと、ポタージュを掬って口に運んだ。彼女がこんなこと考えてるなんて知ったら幻滅しちゃうかなぁと思いながら。

 夕食も終わり、お風呂に入って1日の疲れを洗い落としてリビングに戻るとキバナがドライヤーを持って待機していた。もしやといそいそと近付いてみると、案の定髪の毛を乾かしてくれるとのこと。待っていましたとばかりに私はソファの下に座り、彼の厚意に甘えるのであった。
 ドライヤーが稼働すると耳の近くはその音以外が聞こえ辛くなった。それはきっとキバナも一緒だろう。暖かい風か髪の毛を揺らすのを感じながら、私は聞こえないだろうと高を括って独り言を呟く。

「本当はね、私とっても嫉妬深いの」

 キバナが女の子のファンに囲まれるのも、彼女たちに優しく対応するのも、本当は全部嫌だ。私ってすごく心の狭い女なんだ。目を瞑りながら、ドライヤーの音にこの声と一緒にこの気持ちもかき消されてしまえばいいのにと考える。こんなに優しくて素敵な恋人が居るのになんて贅沢をと怒られそうだなと苦笑してしまった。
 ドライヤーが止まり、キバナが終わったと肩を叩き私は顔を上げた。ありがとうと言うつもりだった口はキバナの唇によって一瞬塞がれ、すぐ離れていく。突然のことで呆けながら、どうしたのと質問すると彼はにやりと笑って私の頬を軽くつまんだ。

「どうって、リーシアのご機嫌取り?」

 クールな彼女に嫉妬してもらえるなんて、彼氏として光栄だと思ってさ。なんて悪戯に成功した子どもの様に笑うものだから、私は何よそれとつられて笑ってしまう。その表情からして先ほどの独り言も、夕食の時の私の考えも、全て彼にはお見通しだったらしい。叶わないなぁ。私はそう言いながらキバナの横に座り、自分よりも一回り以上大きな手を握りその肩にもたれ掛かる。ラフな部屋着の彼から私と同じ香りがして、あ、と気が付く。そういえば胸に抱えていたもやもやが無くなっていると。

 ちらりと顔を上げてキバナの表情を盗み見ると、やはりすぐに気が付いて目を合わせて笑顔でどうしたと訊いてくる。私は何でもないと言いつつ、緩む頬をそのままに手を強く握る。きっと、今後も嫉妬深い私はたまに現れては心を荒らしていくと思う。それでも、キバナはすぐに気が付いてそんな私を癒してくれるのだろう。それなら、たまには嫉妬深い私が出てきても良いかもなんて現金なことを考えてみる。
 お風呂に入って満腹で、素敵な彼氏が隣に居てこうして触れられる。ああ、私ってなんて幸せなの。こうして今日も、私は小さな幸せを噛みしめて1日が終わるのであった。

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