年を越して夏が過ぎジムチャレンジが終わり、また年が明ける。それを繰り返し3年が経ち、もう4年目に突入した。私のジムチャレンジ生活は毎年少しずつ記録を残し、この4回目のチャレンジでキバナさんに挑戦可能だと確信できるくらいまで成長出来たと感じた。

 2回目の挑戦ではなんとかカブさんに勝ち次のオニオンさんに負け、3回目はネズさんの所で挑戦が終わった。負ける度に一週間は落ち込みポケモンたちに慰められるが、さすがに1度目のように塞ぎこんだりはしない。キバナさんにもちゃんと笑顔で報告出来た。キバナさんは結果を知っているにも関わらず、私の口から聞くとそうかと笑って言ってくれた。

 しかし、負け続きのジムチャレンジでも成果がなかった訳ではない。2回目の旅の途中でドラメシヤはドロンチへ進化し、クスネを捕まえた。3回目ではクスネがフォクスライへ進化し、ダルマッカを捕まえて氷の石でヒヒダルマに進化させた。そして4回目の挑戦へ向け、育て屋のお姉さんからイーブイのタマゴを譲り受けたので、孵化させてリーフの石を使いリーフィアへ進化させた。その最中に、ドロンチはドラメシヤへ進化した。

 あとは夏の間に出来る限りシュートシティへ通いトーナメントを観戦した。間近で見るチャンピオンの強さに圧倒されつつも、ジムリーダーたちの見たことのない戦い方をメモしようと使い始めた手帳は今やボロボロで汚い。けれど、その手帳のおかげで今までは気付かなかった自分の弱点や、戦い方を手探りで見つけることができた。

 手持ちは5匹となり、戦略もポケモンたちと相談しながら立てた。これでジムチャレンジへの、キバナさん挑戦への準備は整ったと言えるだろう。

「さぁ、頑張ろう」

 ボールに入ったままの仲間に声をかけ、4度目のターフタウンに降り立った。

・ ・ ・

 ターフタウン、バウタウン、エンジンシティと順当に進み、特に苦戦することなく前回負けてしまったスパイクタウンまで勝ち上がる。ネズさんは私の顔を覚えていたようで、「ああ、あなたが……」と何やら意味深に呟いていた。十中八九あの後にキバナさんから何か聞いたのだろう。私は曖昧に笑って挨拶もそこそこにナックルシティへ歩き出した。

 7番道路を抜け2か月ぶりにナックルシティへと戻ると、私はサプライズで自宅へ戻りママを驚かせた。ジムチャレンジもあとはナックルシティだけだと知ったママはそれは喜んでくれて、その日は急遽パパも早めに帰って豪華な前祝いをしてくれた。夜になると久しぶりに慣れた環境で休めるからか、ベッドに入るとすぐに夢の世界へ潜り込んだ。

「いってらっしゃい」
「また後でね!」

 翌日、見送りをしてくれた両親に「絶対勝って帰るから!」と高らかに宣言してナックルスタジアムへ向かった。受付を済ませ、選手控室で1人ベンチに座る。ここからでもスタジアムからの興奮が伝わってきて、少しずつ緊張してきた。しかし、緊張よりもキバナさんとバトル出来ることの方が楽しみで気分が高揚してくる。これが終わればチャンピオントーナメント戦。そして、長年の目標が達成できる。

「思いっきり楽しもうね、皆」

 腰にかかったホルダーに固定してあるモンスターボールに触れ、感触を確かめているとスタッフが出番だと声を掛けてきた。私はすぐに返事をすると、歓声沸きあがるコートへと歩き出した。

 コートの中央まで進み、立ち止まる。両親が見に来てくれているのは分かるが、会場は満席でここからでは見つかりそうになかった。自分の反対からはキバナさんが歩いてきて同じく立ち止まる。いつもみたいに笑みを浮かべながら。

 私たちの周りにはロトムが浮遊し、その様子をメインビジョンに映し出していた。今までのどのスタジアムよりも大きく響く観客からの声援が空気を震わせ肌に伝わる。私は正面に立つキバナさんを見上げて笑った。

「やっとここまで来ました。今日は勝ってみせます」

 はったりか、それとも願望か。私はキバナさんをじっと見据えて宣言した。キバナさんはニッと笑って腰に手を当て返す。

「ついに来たな。だが、オレさまの壁は高いぜ?」

 いくら普段から交流のある人間だからと言って、手加減するつもりはないらしい。手加減されても、こちらとしても興ざめだ。

「どんなに高くたって、ウインディと皆で駆けあがって見せます!」
「いいぜ! 全力でかかってこい!」

 その言葉を皮切りに、キバナさんは優しい雰囲気からがらりと空気を変えた。まるで研ぎ澄まされたナイフのように、鋭い視線を挑発的に笑いながら私に送っている。ああ、これはいつもトーナメントの時に遠くから見ていた、バトルを楽しむキバナさんの姿だ。そう思うと途端に闘争心に火が付き、腹の奥底からふつふつと興奮が沸き起こる。それと同時に、バトル開始のBGMがスタジアムが響き渡った。

 キバナさんはフライゴンとギガイアスを、私はリーフィアとヒヒダルマを場に出す。私の視線と彼の視線が交わり、一瞬だけ時間が止まる。先に動き出したのはどちらだろうか。指示を受けたポケモンが一斉に技を繰り出した。

 バトルは一進一退で、やや私の有利な展開で進んで行った。フライゴンはヒヒダルマの、ギガイアスにはリーフィアの攻撃がうまく刺さる。途中二匹とも倒されてドラメシヤとフォクスライに出てもらい、最終局面まで進む。しかし、フォクスライはサダイジャに倒されウインディと交代になった。

 サダイジャがドラパルドに倒されると、キバナさんはジュラルドンをキョダイマックスさせて最後の戦いを挑んでくる。私はそれに対抗してウインディをキョダイマックスさせた。

「さぁ、これで最後だ。オレさまに勝って見せろ、リーシア!!」

 ジュラルドンの攻撃でドラパルドが瀕死になる。残るはウインディだけ。私は最後の指示をウインディに言い渡した。

「ウインディ、ダイバーン!!」

 フィールドが炎に包まれていく。ジュラルドンに当たった技は強い風を生み出し、火傷しそうなくらいの熱気に私は思わず腕で視界を覆った。風が止み土煙が収まると、私は状況を確認すべくフィールドを見た。そこに立っていたポケモンは――。

「ウインディ……!!」

 キョダイマックスが解け、目を回したジュラルドンと胸を張って地に足をしっかり付けたウインディだった。夢にまで見た、勝利の瞬間だった。

「勝った……。勝っ、た……?」

 もしかして本当に夢でも見ているのかと頬を抓るとちゃんと痛くて、力が抜けた私はそのまま地面に落ちるように座り込んだ。最強のドラゴンタイプのジムリーダーに勝ったのだ。そうだと分かっていても実感がないので、頭の中は夢見心地だった。

「ほら、掴まれ」

 初めてジムチャレンジして勝った時のヤローさんみたいに、キバナさんが私の手を引っ張って立ち上がらせてくれる。人の肌の感触に少しだけ現実に戻ってこれた私は、改めてちゃんと彼の顔を見た。いつもの穏やかな表情に戻ってはいたが、どこか悔しそうに少し眉を寄せていた。きっと、カメラ越しでは分からない程の違いだと思う。私はその珍しい表情に思わず笑ってしまった。

「何が可笑しいんだよ」
「だって、キバナさんのそんな顔初めて見ました」

 緊張が解けてしまったせいか私は笑いがこらえられなくなり、カメラで映されていることも忘れて大きく笑う。あまりにも楽しそうに笑っているからか、キバナさんは少し面食らいながらもつられて笑っていた。

 そうして、試合は終わり私はジムチャレンジ最後のバッジを手に入れた。リングにぴったりと嵌った全てのジムバッジが光を反射して宝石のように輝いている。4年越しの念願のものがついに手の中にあると思うと、感動して涙がこみ上げてきた。

 その日は家に帰ると両親と祖父母がパーティを開いて待ってくれていた。私とポケモンたちの好物がテーブルに並び笑顔が絶えない、ささやかながらも楽しく賑やかなパーティだった。

 食事を楽しみ会話を楽しみ、長いジムチャレンジの旅の思い出を皆に語っていく。こうして口に出すことで辛かったことも悲しかったことも、良い思い出なっていく気がした。

・ ・ ・

 夜が更け星で空が覆われきったころ、私は庭にある小さなパパ手作りのベンチに座りホットココアを飲んで月を眺めていた。綺麗にまん丸な月に見惚れていると、足元で丸くなっているウインディが顔を上げた。「どうしたの?」と顔をそちらに向ければ、昼間に会った人が居て慌てて立ち上がる。

「キバナさん!?」

 記憶が正しければ家にまで来たのはシャンデラとゴーストの拉致未遂事件以来ではないだろうか。キバナさんは「よっ」と片手を上げて挨拶してくる。ウインディは匂いの正体が分かって興味を失ったのか、また顔を体に埋めて寝始めた。私はそんな彼に少し笑ってキバナさんに近付く。

「どうしたんですか? こんな夜に」
「悪い、仕事で遅くなった。実はアツバさんに誘われてたんだ」

 バツが悪そうにキバナさんは言うと、背中に隠していた物を私の前に持ち出した。

「花?」
「今日のお祝いだ。負けたオレが渡すのも変な感じだろうけどな」
「いえ、すごく嬉しいです! ありがとうございます」

 この時期らしいコスモスとダリアがメインのブーケで、自室に飾るのに丁度良いだろうと考える。両手でそっとそれを受け取り、私はキバナさんを中に案内しようとするも彼は首を横に振る。仕事がまだ残っているのだと静かに言った。それならば私も無理を言えず、そうですかと答えてベンチに案内する。キバナさんはお礼を言って私の横に座った。

「まさか、負けるとは思わなかったぜ」
「私もまさか勝つとは思わなかったです」

 お互い星を眺めながら出会ったころから、今に至るまでの思い出話に花を咲かせる。初めて会った開会式でからかったこと、ガーディの保護が大変だったこと、ポケモンに連れ去られそうになった時はさすがに肝が冷えたこと。今まで聞けなかった本音や逸話に驚いたり反省したり喜んだり。短い時間ではあるが、キバナさんとこんなに話をしたのは久しぶりだった。

「来週はジムチャレンジの最終トーナメントか。勝てばダンデに挑むんだな」
「そう、ですね。今もあまり実感ありませんけど……」
「まぁ、普通はそうだよな。オレもジムチャレンジしてた時はそうだった」
「キバナさんもジムチャレンジしてたんですか?」
「そりゃ、オレだってチャンピオンには憧れたぜ」

 今は打倒ダンデだけどな。キバナさんは苦笑した。思いがけない自分との共通点に、思わず親近感を覚え嬉しくなった。

 月が傾き夜が少し深くなってきたころ、キバナさんは「そろそろジムに戻るかな」と立ち上がった。門まで見送ると立ち上がると、キバナさんは危ないからと断り背を向ける。

「来週、頑張れよ。応援してるが、オレさまも本気出すぜ」
「……はい! また勝ってみせます!」

 家の敷地を出て姿が見えなくなるまでキバナさんを見送ると、ウインディがもう家に入ろうと鳴いた。マグカップに入っていた温かいココアはすっかり冷めてしまった。私はウインディの体を撫でると、彼をボールに入れて家へと入った。

・ ・ ・

 そうして時間はあっという間に過ぎ、ついにチャンピオンカップ当日になった。前日の夜は思っていたよりもぐっすり眠れて、朝から体調が良い。それはポケモンたちにも言えたことで、皆張り切っていた。

 シュートスタジアムまでアーマーガアタクシーで移動し、ユニフォームに着替えて控室で出番を待つ。予定時間ピッタリで始まったチャレンジャー同士の予選では私の圧勝で終わり、翌日のセミファイナルは最初のバトルでルリナさんに当たった。リーフィアとドラパルドが活躍し、勝ち上がる。次はメロンさんで、こちらもヒヒダルマとウインディが活躍して勝った。そして、最後のバトルで当たったのは、もちろんキバナさんだった。

「予定通り、勝ち上がって来たな」
「もちろん。約束ですから」

 見知った相手だからか、いくらか緊張が和らぐ。やっと浮かんだ笑顔も一瞬で、私たちはすぐにバトルに突入した。ジムバトルとは違い1体ずつのバトルはやはり慣れた私の方が有利だったのか、なんとか私の勝ちで終わる。キバナさんはその結果が分かっていたのか、最後の握手ではどこかスッキリした顔をしていた。

 翌日、私はロンド・ロゼから出ると取材のために出待ちしていた記者をなんとか笑顔でかわしてシュートスタジアムへ向かった。控室で1人になり意識を集中させる。ここからでも聞こえてくる会場の歓声から、どれだけ皆がこのバトルを楽しみにしているかが伝わった。無敗のチャンピオンであるダンデさんとの試合は楽しみであると共に少し怖かった。しかし、そんなことなんて気にしていられない。私は私の、出来る以上の力をこの最後の試合で出すだけだ。

 胸元にかかったネックレスを祈るように強く握る。勝つか負けるか、私の実力を試す時が来た。

・ ・ ・

「勝者……!! チャンピオン・ダンデ!!」

 ローズ委員長の高らかな宣言と共に、ダンデさんは観客に向けて勝利のポーズを決めて見せた。割れんばかりの歓声が空気を揺らす。

 ーー強すぎる。異次元の強さだ。

 キバナさんに勝ったおかげでいくらかついた自信は、目の前のチャンピオンに見事打ち砕かれた。彼のポケモンに、私の自慢のポケモンは全く手も足も出なかった。これが天賦の才能と実力の差かと思い知る。だが、不思議な事に初めて負けた時みたいに涙は溢れてこなかった。妙に気分は落ち着いている。

 呆然として立ち尽くす私にダンデさんが手を伸ばす。私は我に返ると慌ててその手を握り返した。

 ーー悔しい。死ぬほど悔しい。

 けれど、どうしてかまた挑戦して次こそは勝ってやる、という気持ちにはならなかった。きっといっその事清々しいまでに打ち負かされてしまったおかげか。逆にもうすっぱりと諦める事が出来たのだろう。すっりきとした顔でダンデさんにお礼を述べて手を離すと、私の中で長くも短かったジムチャレンジ生活は終わりを告げた。

 その後、両親や祖父母には知っているだろうがきちんと報告して、これでジムチャレンジを辞める事を伝えた。皆、お疲れ様と言ってくれた。

 キバナさんにも同じくきちんと報告すると、少し残念そうにしながらも私の決断に納得してくれた。元々のジムチャレンジの目標はキバナさんと戦う事であり、チャンピオンになりたかった訳ではないのでこれで良かったのだ。これからどうするかはまだ決めていないが、ポケモンに関わる仕事をしたいとは思っている。しかし、まずはしばらくゆっくりして旅と戦いの疲れを癒そう。

 家に帰り記念である8つのジムバッジが嵌ったリングをベッド脇の棚に飾ると、私はウインディをボールから出しその体に抱きつきそれは深く深く眠った。

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