小説 | ナノ

 06

言葉を遮ってそう言うと黒蝶は少しムッとした様子でそっけなく次のように言う。

「別にどうもしていません」

「色男とダチなんじゃなかったっけか?どうしてこっち来ないんだよ」

「いや、ああ見えて結構内気な所もあるというか…」

「ああ…そっか。そういや色男には会えなかったな。疾風の奴に土産話でもしてやろうかと思ってたのに残念だったなあ」

土産話とか言いつつただ単にからかってやりたいだけだろうと黒蝶はジトリと零侍を見た。本当に性格の悪い男だ。
その時冷たい風が森に吹き込んだ。そろっと冬が近いんだなあと思わせる。気付けば日も傾き辺りは暗くなってきていた。抱いている黒蝶が身震いするのが分かった。

「立ち話はこれくらいにして帰ろうぜ。女の子は体を冷やしちゃ駄目だもんな」

零侍は小さく笑ってそう言った。少しして黒蝶が「にゃあん」と愛らしく鳴いた。





屋敷に戻ってからも平八と莎介のぎこちない雰囲気は続いていた。両者共に互いのことを気にしているようではあるがなかなか会話までに至らない。見兼ねた廩饂が平八に声をかける。

「貴様らいつまでそうしている気だ」

平八は苦々しい表情を浮かべた。

「いや、その、どう話しかければいいのかよく分からなくなってきてさ…」

「は、面倒な奴らめ。水野と小僧は昔からそうだな。今頃、小僧は小僧で己が言ったことを凄まじく後悔しているであろうな」

そんな莎介の様子を思い浮かべて思わず喉の奥で笑ってしまった。すると今まで俯き気味だった平八が、急に廩饂に向き直って正座した両の膝に拳を握った手を乗せて
「本っ当に廩饂さんにはいつもお世話になってます」
と変に改まって頭を下げたのだ。
これには廩饂も声をあげて笑った。そして、「なに、慣れたものよ」と面白おかしそうに切れ長の左目を細めてみせた。

「なんなら、また我が貴様らの仲を取り繕ってやろうか?」

「その必要は御座らん!」

不意に聞こえてきた声の方に二人は顔を向けた。その途端に襖がスパーンと音を立てて空け放たれ、そこから莎介がずんずんと入ってきた。

「噂をすれば影、だな水野よ」

ぼそりと平八にしか聞こえないくらい小さな声で廩饂がそう呟いた。莎介が来て少し緊張したのか背筋がピンと伸びていた。
二人の目の前まで来ると廩饂の方を見て言い放つ。

「廩饂殿には席を外して頂きとう御座る。拙者は平八殿と二人で話がしたい」

廩饂は肩をすくめて見せると、平八の肩に手を置いて「だとさ、まあ頑張れ」と声を掛け歩き去っていってしまった。すがるものを無くしたような心細い気持ちになった。気まずい雰囲気と沈黙が暫く続くと、縮めた距離を更に縮めて莎介が平八の目の前で止まった。思わず殴られるかと思って目をぎゅっと瞑る。しかし、いつになっても頭の中で火花が瞬くような衝撃はなく、片目だけ恐る恐る開けてみた。



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