◎ 03
それを聞いた平八は下を向く。
自分は戦うことに恐れを感じているのかもしれない。大戦で死にそうな思いをしてやっとのことで生き延びて、でも大切な人達が死んでしまって、そんなことがこれからも繰り返し起きてしまうとしたら耐えられるはずがない。
「あのー、すいません」
頭上から声が降ってきて二人が顔を上げると、橙色の髪を左脇に結った細身で背の高い青年がそこにいた。少し困った様子である。
「ちょっと席がいっぱいみたいでさ、相席させてもらってもいい?」
周りを見渡してみると確かに満席状態のようである。平八と莎介は快く受け入れた。
「いやあ、助かった助かった!この店評判が良いっていうから気になって来てみたんだが生憎満席で困ってたんだ」
平八の隣に座った青年はそう言うなり通りがかった店の人に限定品の餡蜜を頼むが既に無くなってしまっていたようでガックリと肩を落とす。代わりにぜんざいを注文した。
「ところで見ない顔で御座るなあ」
莎介がじいっとその青年を見て言う。
「ああ、この国の人間じゃないからなー俺」
垂れた目で微笑む彼を見ていると何だか力が抜けてくる。
「何処の国から来たんだ?」
「んー、あまり大きな声じゃ言えないが天杜薙」
「あ、あまずっ…!?」
「ばっ!!しーっ!!声がデカイぞ!」
天杜薙と聞いて思わず大きな声を出す平八の口をすかさず塞ぐ青年。
「此処へはただの旅行に来ただけだ」
「旅行って…、よりによって最も敵対している朱矢咫に来るとか自殺行為だろう」
呆れたように言う平八に対し青年は笑う。
「でもあんたらは俺を役人に突きだそうとしないじゃないか」
「無駄な争いは好まない主義でね」
「相席したのが拙者らで良かったで御座るな旅人殿。そうでなければ貴殿は今頃役人に突きだされて格子の中で御座る」
それを聞いた青年は「おお怖い」とわざとらしく身震いしてみせた。二人が彼に対して「危機感無いな」と感じたのは言うまでもない。
「そういえばさっき戦の話しをしていたみたいだな?」
注文したぜんざいが来るなり白玉を餡に絡めて口に運ぶ青年はそう言った。
「ああ、まあ…」
平八は視線を游がせて表情を曇らせ、その様子を見た莎介はたじろぐ。一方青年はそんな二人を面白そうに見ているので何だか腹が立った。
「俺も戦は嫌いだねえ。まあ俺の場合は体力使うのが嫌なだけだけどさ」
「戦を軽く考えているので御座るな貴殿は」
軽蔑の混ざった視線を飛ばす。
「まあでもやっぱり戦が好きな奴も少なくはないと思うぜ?世の中には色んな奴らがいるわけだしな。そいつらがいる限り戦は無くなることはないだろうさ。ましてやこの国は今時話し合いで解決しようなんて考えてるんだろ?そんなの無理無理」
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