小説 | ナノ

 02

「我が直接見たわけではない故定かではないがな」

「しかしただならぬ気とは一体…」

「幽霊だったりしてな」

平八が冗談でそう言うと莎介の顔がたちまち青ざめる。この手の話しは莎介は苦手なのだ。

「まあ、時間のある時にでも我が行って確めてこよう」

「そうしてもらえるとありがたい。頼んだ廩饂」

「…廩饂殿」

「何だ小僧」

「くれぐれも幽霊をこの屋敷に連れ帰ってこないよう美鵺を出る際にはくれぐれも!除霊してきて下され」

「水野の冗談を真に受けるな阿呆が」

必死の形相で肩を掴み揺さぶる莎介の腕を振りほどき、こちらに視線を向ける廩饂に平八は苦笑いを浮かべた。

「しかし天杜薙の連中が動き出したとなると油断はできぬな」

「天杜薙の武人達は武力に富んでおるからな。拙者も足手まといにならぬよう精進せねば」

「俺は…」

そんな二人の会話を聞いていた平八は表情を曇らせて口を開く。

「できれば戦いたくない」

「水野の気持ちも分からなくはないが、そんな甘い考えは奴らに通用せぬぞ」

「そうかもしれないがもっと話し合って」

「話し合いで解決してるならとっくにしている」

あまりよろしくない雰囲気が漂い始め、莎介は慌てて違う話題を切り出す。

「あ、あー!そういえば美味しいと評判の甘味処を見つけたので御座った!拙者小腹が減ってしまったで御座るよー。良かったらこれから三人で行きませぬか?」

その提案に小さくため息をついてこちらに背を向ける廩饂。

「我は遠慮する。やらねばならないことがあるのでな。悪いな小僧」

「そう、で御座るか…。ならまた次の機会にでも。というわけで行きましょうぞ平八殿!聞いた話しによれば限定品もあるそうで御座る。無くなる前にさあ早く!!」

「あ、ああ」

平八の返事を聞く前に莎介はその甘味処へ向かって走り出していってしまった。平八も後を追おうとすると背後から廩饂の言葉が容赦なく刺さる。

「水野、甘い考えは捨てた方がいい。この世は乱世だ。ぬるい考え方をしているような輩は早死にするのがオチだ」

彼に対して何かを言い返そうと言葉を探したが見つからなかった。それでもやはり納得がいかなくて後ろを振り向いたが廩饂の姿は既にそこには無かった。


誰だって戦なんてしたくないはずなのに。




「平八殿ー?」

ぼんやりとしていると莎介が顔を覗いてきた。はっとして我に帰ると、そういえば今は甘味処にいるのだということを思い出す。目の前には限定品とやらの餡蜜を頬張る莎介がいる。

「あまり気にしない方が良いで御座るよ」

「え?」

「廩饂殿のことで御座る。しかしまあ…、今の時代では戦は避けられないものでもありまする。拙者もできれば戦いとうないがこの世に生み落とされてしまった以上避けようのないことと言うか…」

木で出来たヘラを口に食わえ頬杖をつく。



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