小説 | ナノ

 16

そうして二人を残してその場を後にした。

残された莎介とルーサーは一時顔を見合わせていたが、取り敢えずお互いの名を名乗り合った。そして、ぎこちなく歩きだして、屋敷内を案内する。最初は莎介も相手を注意深く見ながら距離を取っていたが、ルーサーの人柄を理解すると、自然と距離は縮み打ち解け合っていった。

屋敷内の大体の案内を済ませたところで莎介はルーサーを客間に通した。客間にも目を引くものがあったようで、ルーサーは興味深げに一つ一つをじっくり観察し、時々莎介に質問を投げ掛けた。

「ルーサー殿はこちらの文化に興味がお有りか?」

あまりに熱心に壺やら細かな描写を施された襖やらを見るものだから莎介は不思議に思って問い掛けた。

「ああ、前々からこっちの国には来てみたいと思ってたんだ。この辺りの人々は手先が器用で、素晴らしい作品が沢山あると聞いていたんだが、まさかここまでとはな」

そこまで言ったところで表情を少し曇らせてぼそりと一言呟く。

「別の形でこの国に来れれば良かったのにな」

よく聞き取れなかった莎介が「え?」と聞き返すも、ルーサーは何でもないと首を横に振った。

それから暫くして廩饂が客間に入ってきた。対談がどうなったのか気になった莎介が身を乗り出す。

「やはり良い顔はされなかったが、無理に押し通した。役人め、鬼獣にしても外の人間にしても怖じけ過ぎだ」

ため息をついて腰を下ろす廩饂に対して、ルーサーが申し訳なさそうに謝るので、気にする必要はないと言葉を返した。

「まったくで御座る。戦地に赴き、命懸けで戦っているのは拙者らの方だというのに」

「いつものことだ。放っておけ」

廩饂は一度言葉を切って、それから美鵺でのことを莎介に話した。大穴の封が破られていたこと、鬼獣と遭遇したこと。話を聞いている莎介の顔色がみるみる悪くなっていくのが見てとれた。

「そんな…。では拙者等は、これからどうしたらいいのだ」

「それをこれから決めるのだ。鬼獣のことは既に役人にも話してきたが…、城主の肩代わりである水野がいなければ話にならぬ。決定権は奴にある」

「しかし、こうしている間にも鬼獣は国に入り込み、民に危害を加える恐れもあるではないか!南のような結界も、西のような天高くそびえる竹林の壁もこの国には存在しない」

莎介の言う通りだ。南の阿佐織はありとあらゆる術が存在する国であるが、その中でも近年、結界術は目覚ましい発展を遂げている。結界術とは防御壁のような強固な膜を纏うことができる護身術の一種である。阿佐織の術師達はその力を利用し、国を覆うような形で術式を展開している為、国を攻め落とすことも入国することも困難を窮める。

一方、西の国天杜薙には阿佐織のような術師はいないが、国を囲うように隙間無く竹林が植わっている。竹にしては背丈が異様に高く、太くて硬い。外敵の侵入を完全に防ぐことは難しいかもしれないが、時間稼ぎにはなるだろう。しかし、此処朱矢咫にはそういったものがない。




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