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「ありがたい話だが、先程会ったばかりの信用できるかも分からない外の人間なんかがそっちに邪魔したら迷惑なんじゃないか?」

「貴殿には先程助けられた恩義もある。信用できるかできないかは…、そうだな、今までの会話でそれなりに判断できた。それに、もしかしたら、貴殿が探している人物の情報がこちらの国にもあるかもしれない」

「じゃあ、お言葉に甘えて。よろしく頼む」

男は申し訳なさそうに丁寧に頭を下げると続けた。

「俺はルーサー。ルーサー・コールリッジだ」

「紫柄御廩饂だ。よろしく、ルーサー」

ルーサーが手を差し出してきたので、廩饂は小さく口元に笑みを浮かべて相手の手を握った。




廩饂がルーサーを連れて朱矢咫に帰還したのは、それから数日後のことであった。国に入るなり、ルーサーは自国に無い物を見る度「あれは何だ」と問い、子どものように目を輝かせてはしゃいでいた。廩饂はそんな様子を見つつ、早急に美鵺での出来事を平八や莎介に伝えなければと足早に露店が並ぶ通りを抜け、屋敷を目指した。

屋敷の入り口に差し掛かった所で、丁度莎介と鉢合わせした。廩饂を見るなり泣き出しそうな顔をして言うのだ。

「く、廩饂殿!御無事か!?怪我は無いか!?」

身を乗り出してこちらに顔を近づけてくるので廩饂は思わず背中を仰け反らせる。

「大袈裟だ小僧。この通りぴんぴんしている」

それを聞いてホッと胸を撫で下ろすと、ルーサーを見て首を傾げた。

「そちらの御人は?」

「彼はルーサー・コールリッジだ。ルルスという外の国から人探しでこっちまで来ているらしい。美鵺でたまたま出会ってな、命を助けられた」

「命って…、やはり何かあったということでは御座らぬかっ!!」

本当に怪我が無いかこちらを凝視する莎介に呆れて指で相手の額を小突いた。「いたっ」と小さく飛び上がり、小突かれた部分を擦って口を尖らせた。

「ところで、平八はおるか?」

「それが、平八殿は三日程前に阿佐織に出立されてまだ帰ってきておらんのだ」

阿佐織と聞いて眉をひそめる。

「何故奴が阿佐織に?」

「詳しいことは分からぬが、数日前平八殿は阿佐織の城主宛に文を出したらしいのだ。その返事が最近届いてすぐに発たれてしまったで御座る」

平八に詳しい理由を教えてもらえなかったのが不満なのか莎介は複雑そうな顔をした。廩饂にとってもこれは予期せぬことだった。そういえば奴は、我が美鵺への偵察に発つ前に「俺は俺で動いてみる」と言っていた。まさかそれが今回のことと何か関係があるのだろうか。ルーサーに目をやるとポカンとした様子でこちらを見ている。

「立ち話もなんだ。歩き通しで疲れたであろう。上の者には我が話をつけてこよう。小僧、ルーサーを客間に通して休ませてやってくれ。美鵺でのことはその後話す」



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