小説 | ナノ

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「これはライフルっていう銃の一種だ。俺の国じゃ狩りで使われるのが主流でな。ちなみにこれは遠距離系統かな。ほら、この引き金を引けば銃弾が飛び出す仕組みさ」

実際に引き金部分に指をかけて撃つ真似までしてくれた。外の国にはそのような画期的な武器があるのかと驚くと同時に、その技術を取り入れれば鬼獣との戦いも有利になるのではないかとも思った。

「そういえば、貴殿はなぜわざわざルルスからこの美鵺に?ここにはもう何も残ってはおらんぞ」

「ああ、知ってる。大戦で滅んだんだってな。ちょっと人を探してて、そいつが美鵺出身だからもしかしたらと思って訪ねてはみたんだが…」

一瞬だけ表情が曇ったような気がして違和感を覚えた。間髪入れずに男が聞く。

「夜咲良勒っていう名前なんだが、お兄さん知らない?」

「夜咲良…。その名字には聞き覚えがある。言い方が良くないかもしれぬが、弱小一族だったということくらいしか分からんな」

眉間にしわを寄せて顎に手を当てて答えた。すると男が「弱小?」と呟いて首を捻るので廩饂は頷いて続けた。

「美鵺に関する資料は大戦で消失してしまい今ではもうほとんど残ってはいない。故に詳しいことは分からぬが、元々美鵺は武力に乏しい国で他国から相手にもされていなかったようでな。弱い一族しかいないのをいいことに領地も好き放題奪われていたらしい」

大戦で朱矢咫が美鵺と同盟を締結したのもそれが理由である。美鵺の戦士は皆弱い。それは廩饂も大戦に参戦していたというのもあってよく分かっていた。故に人が良かった朱矢咫の城主は、美鵺が滅びゆくのを黙って見過ごすことはできなかったのだろう。

「酷い話だな…」

「…ところで、貴殿はこれからどうするつもりなのだ?」

その問いに男は困ったような顔をして、口篭るが少しして口を開いた。

「南に知り合いがいるからそっちに当たろうかと思って」

「南?阿佐織のことか。あそこは木彫板(もくちょうばん)が無ければ入国できないぞ」

「何だその…、もくちょうばんとやらは」

木彫板とは身分証明書兼入国許可証のようなもので、阿佐織にしかない樹木で作られた小さな木板だ。それを持つのは阿佐織の城主から信頼が置かれている一部のお偉方くらいで、所持者はほんの一握りだ。阿佐織への入国が厳しくなった理由だが、現城主がまだ幼い頃に部外者から誘拐されそうになったことがあったらしい。強すぎる妖力を狙っての犯行だったようで、今後はこのような事が起こらぬよう役人が条例を改めたようであった。

一通り説明すると男は「弱ったな」と呟き、困った様子でうなだれた。

「日が暮れては先程の化け物が徘徊する可能性もある。我は東の朱矢咫という国から偵察でこちらに来た。もし行き場に困っているようなら来るといい」



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