小説 | ナノ

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莎介は全身が血塗れの状態だったので、体を洗ってくると言いその場で別れた。平八と廩饂は屋敷の中の一室に入り、深刻な面持ちで話し始めた。

「あの女の子を殺したのは鬼獣だ」

「なに、それは誠か?」

廩饂が驚いたように目を見開いた。

「額に角があった。間違いない」

鬼獣は額部に角が生えているのが特徴だ。角の数はその鬼獣によって異なる。一本や二本の者もいれば、額部を覆うように生えた滑稽な者もいる。それがまさに鬼のようだと言われたことから、いつしか鬼獣と呼ばれるようになったらしい。

「我を忘れた莎介がひたすら刀で突き刺してたよ。死人みたいに顔を真っ青にしてな」

「小僧の気持ちは解らんでもない。奴らは我らにとって脅威でしかないからな」
「…それで、廩饂に危険を承知で頼みがある」

おずおずと言うと、廩饂は解っていると頷いた。

「美鵺の大穴を調べてこいと言いたいのだな?封じ込めたはずの奴らがこの地にいるのはおかしいからな。なに、そんな遠慮がちに言うな。使役されてこそ忍よ」

「あぁ、悪いな。ただの封じ逃れた残党だったらまだいいのだが、もしもということもある。それに、封が破られたのだとしたらあまりにも早すぎる。俺は俺で動いてみるよ」

「何か考えでもあるのか?」

平八は頷いてみせる。廩饂はそうかと短く言うと、細かいことは聞こうとはせずに立ち上がり、部屋を出て早速美鵺へと旅立っていった。一方の平八は筆を手に取り文を認(したた)め、若い家臣を呼んで書いた文を託し屋敷を出る後ろ姿を見送った。自分自身が行ければいいのだが、城主の肩代わりである己が屋敷を空けるわけにはいかない。故に文の返事が届くのを待つしかない。

夜風が悪戯に平八の頬を撫ぜ、結われた髪をなびかせて通り抜けていった。思わず身震いして、はあっと息を吐いてみれば、それは白く、煙のように立ち上って消えた。下町は落ち着いたろうかと背伸びをしたが、屋根の上からでないと町の様子は見えないようで諦めた。夜もすっかり更けたが、とても眠れそうにない。ふと、何年も前に消息を絶った幼馴染みのことを思い出した。泣き虫で意地っ張りの大切な友人だ。平八はずっと友人の行方を追っていた。しかし手掛かりが何もないまま無情にも月日は流れていった。生きているかも死んでいるかも分からないが、平八は決して諦めなかった。しかし、再び鬼獣が現れた今はそれどころではないな、と溜め息をついて肩を落とした。空を見上げてみれば、星が幾重にも渡って瞬いていた。










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