小説 | ナノ

 08

その問いに頷いた莎介が「何故そんな所にいるのか」と問いかけてみたところ
「屋敷内は女子がうるさくて敵わん。それに、今宵の月が見事な満月なのでな。月見をしていた」
と鬱陶しげに答えると月を見上げた。二人も屋敷の者に気づかれないように屋根によじ登り同じように座り込んで、三人は顔を見合わせて笑った。

「こうしてると戦の時代だなんて嘘のように感じられるなあ」

冷たい夜風が三人の頬を撫でる中、平八が呟いた。

「何故戦は起こるので御座ろうか」

風に寒さを駆り立てられたのか身震いする莎介の問いに廩饂は答える。

「お偉方の欲よ。広大な領地を欲し、己の力を知らしめたいのだ」

「くっだらぬ欲で御座るな」

ふんと鼻を鳴らし、げんなりとした様子で視線を下町に向けた。所々にある洒落た燈籠に明るく照らされた街道を人々が行き交っている。あるところでは客引きが道行く人に声を掛け、上手く店に連れ込もうと大袈裟に腕を振ったりしており、またあるところではこれまた目を引くきらびやかな衣装を身に纏う艶かしい女が男を誘うように歩いている。莎介はそんな女子が苦手で、思わず頬を赤らめるとすぐに視線を反らした。そこで、視界の片隅に黒い影が映った気がして、はて、と思い慌てて視線を戻し目を凝らした。先程と変わらぬ下町の情景。気のせいかと肩の力を抜いた時だった。鼻についたかすかな匂いに背筋がぞわっと粟立ち、その場に勢いよく立ち上がった。何事かと平八と廩饂の二人が驚いて莎介を見上げる。

「どうした小僧」

「…臭い」

廩饂の問いには答えず、鼻に腕を当てて呻いたかと思えば、目にも留まらぬ速さで屋根から飛び降り、下町に向かって獣の如く走り出した。取り残された二人は突然の莎介の行動に顔を見合わせたが、続くように屋根から降り下町を目指した。

「莎介の奴、いきなりどうしたっていうんだ。なあ廩饂」

「解らん。奴の人間離れした五感が何かを捉えたのかもしれぬな」

莎介は昔、森で獣に育てられていた孤児であった。その為か人間離れした身体能力と五感を持ち合わせているようだった。莎介の速駆けに追い付くのも一苦労だ。
下町の街道に出ると、慌てた様子で逃げるようにこちらに走ってくる、真っ青な顔色をした男を二人は捕まえてどうしたのかと聞いた。

「女が殺されちまった!そりゃもう目も当てられねえくらいに酷い有り様だった!」
と、震え上がった。

これはただ事ではないと察すると再び駆け出した。少し行って人集りが見えてきて、野次馬であろう人間を掻き分けて一番前に出た。
思わず顔を手で覆いたくなるような惨状であった。そこにはまだ年端のいかない女子の見るも無惨な死骸があった。カッと見開かれた目で一体何を見たというのか。



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