神さまなんかいない(聖豪)


「おはよう」

そう言って笑いかけてくる自分と全く同じ顔に、よく似た声で豪炎寺もおはよう返す。
狂っているのだと思う。自分も、彼も、世界も。歪む前に壊れる前に、あるべき形のほうを変えてしまったというのに、狂っている。
豪炎寺は上半身を起こす。身支度をしっかり整えたイシドがベッドに乗り上げ、あらわな首筋に額を擦り寄せる。子供というよりも動物のようなその仕草をくすぐったそうに受け入れ、小さく肩をすくめた。

「あなたの匂いがする」

イシドが呟く。満ち足りたと言いたげな声色に、豪炎寺の腹の底へ鉛のように重く冷たい塊が落ちていく。
イシドの執着は豪炎寺にのみ向けられている。サッカーの支配もフィフスセクターも、イシドにとっては目的のための手段というだけであり、何よりも優先すべきことではない。
豪炎寺を軟禁しておきながら賓客をもてなすような待遇ばかりなのも、イシドにとっての豪炎寺がどんな存在かを示している。
そして豪炎寺は、それを否定もせず肯定もしない。もしイシドが正義のためと口にすれば真っ向から否定しただろう。正義と悪が二元的に語れるようなものでないことくらい豪炎寺も知っているが、押し付けられる正義はえてして反発を生む。フィフスセクターが、少年サッカー法五条がしているのはそういうことだ。
しかしイシドの支配にそんな大義名分は存在しない。もっと個人的でささやかで、だからこそ傲慢な願いの元に彼は動いている。

「雷門が勝ちました」
「……そうか」
「これで全国大会に出場が決定です。これで気は済みましたか」

身体を起こすと、褒めて欲しいのか子供のように豪炎寺をじっと見つめてくる。豪炎寺は何も言わず、イシドの目を見つめ返した。よく似た二人だが、イシドの瞳は黒い。それが二人の外見の違いだった。
豪炎寺がそっと目をそらす。イシドがベッドから身体を引いた。

「食事の準備が出来ています。さあ、どうぞ」
「着替えは」
「そんなもの、後ででいいでしょう。あなたはここから出ないのだから」

イシドが笑う。豪炎寺は少しだけ身体を折り曲げ、細く息を吐き出した。
ここにいるのは半分強制で、半分は自分の意思だ。まるで子供のようなイシドを突き放すことが出来なかった。あなたのためにサッカーを支配すると言われて、何も返せなかった。それが豪炎寺の罪だ。
もしもイシドが裁かれるなら、その時は自分も一緒に裁かれるべきだろう。世界を憎んだことを無かったことにするには、事態は大きくなりすぎている。
いつか来るであろう日のことを思って、豪炎寺はわらった。

―――
書いていて思った方向とは全く違う展開の仕方になってしまったから没。でももったいないからここに置いていく。

2011/10/23 19:58()

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