故障品は懐かしむ(円堂)

2011/11/08


円堂守は、もう希望の姿をしていなかった。少年だったあの頃のように、可能性と夢と未来ばかりの瞳はもうそこにはない。

かつて、円堂守といえばサッカー界において知らないものはいないとまで言われていた。鉄壁のゴールキーパー、決して破れない完全な守備、最強の守護神。
しかしそれはもう過去のことだ。彼はもうフィールドに立たない。

円堂守は大切なものを無くしてしまった。
栄光でも名誉でも、賛辞でも勲章でもない。もっともっと大事なものを、無くしてしまったのだ。
彼の大きな手のひらから、するりと零れ落ちてしまった大事なもの。取り戻せないかけがえのないもの。

円堂守の中には大きな穴が空いている。

「……みんな、元気にしてっかなぁ」

空虚からぽつりと落ちた言葉。
かつての仲間たちと、円堂守は連絡をとっていない。それぞれの道を踏み出したからというのもあるが、一番の理由は怖かったからだ。
彼は円堂守という少年のまま大人になった。そして彼は気付く。
仲間たちはどんな変化を遂げているだろう。どんな変容を迎えているだろう。もしもそれが自分の思い描く彼らと違っていたとしたら。彼らの変貌を受け入れられなかったら。

円堂守は自らが仲間たちを拒絶する可能性を怖れた。仲間たちとの隔絶を恐れた。
彼は臆病者になったのだ。
無防備な大胆さも、無謀な勇気も、無邪気な残酷さも、全て置いてきてしまった。

「また、みんなでサッカーやりたいなぁ」

円堂守が描くサッカーをするみんなの姿は、あの頃の少年のままだ。彼自身も成長した。妻もいる。それなのに、彼の中の仲間たちは少年のあの日のまま。
しがみついている。綺麗な思い出ばかりを見つめている。

円堂守は自分の変化を受け入れられないでいる。



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空を飛ぶ5つの方法さまから引き続きタイトルお借りしてます。

一昨日…寝落ち
昨日…忘れてた

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