代替品は懺悔する(剣城)

2011/11/03


ここに立つのは、本当は俺じゃなかった。
憧れの豪炎寺さんの出身校、名門とうたわれる雷門中のレギュラーとしてこの草のフィールドを踏むのは、兄さんのはずだったのだ。
才能を嘱望されていたわけではないけれど、雷門は門戸を広く開いていたから、兄さんが先に雷門に進学したはずだ。そうすれば、きっと兄さんなら熱心に練習をしただろうし、めきめきと実力をつけて、俺が兄さんを追って入学する頃にはレギュラーの一員として先に立っていただろう。
証拠もないくせに、妙にはっきりとした確信だけが俺の中にある。
それは兄さんを信じているからだ。兄さんならきっとすごい選手になる、それは予感めいているが、願望でもある。
俺はいつまでも兄さんを追いかけていたいし、兄さんを尊敬していたい。ずっと兄さんの弟でいたいのだ。
だからこそ、俺は今ここに立つのが兄さんでないという事実が絶望的なまでに許せないし、辛い。

俺が、俺のせいで。

「兄さん、調子はどう」
「今日はすごくいいよ。痛くもない」

兄さんはいいとしか言わない。実際はそんなことあるわけがない。いい日ばかりなら兄さんの足はもっと動くようになっているはずなのだから。
兄さんは兄さんだから俺を気遣うのだ。俺が弟だから兄さんは心配をかけまいと本当のことを言わないのだ。
兄さんの弟でいたいのに、俺は俺を殺してやりたくなる。兄さんの足が動かないのは俺のせいだから。

「今日発売のサッカーマガジン持ってきたよ」
「ありがとう、京介。今回の表紙はロニージョか。やっぱりブラジル代表キャプテンはカッコいいな。な、京介」
「え、ああ、そうだね、兄さん」

兄さんは笑う。俺のことを憎んでいないだろうか。恨んでいないだろうか。冷えていく心臓とは裏腹に安堵で緩む心の蓋を必死に押さえつける。

ああ、やっぱり俺は悪い弟です、兄さん。



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title:空を飛ぶ5つの方法
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