1010(京+豪)

2011/10/10

※昨日の続きと思ってください。



「ご、豪炎寺さん!」

背中にぶつかった声の発生源を辿って振り返ると、濃紺の髪の少年が立っていた。確か名前は、

「剣城……だったか?」
「!」

一度に十二人以上を紹介されたため、名前と顔を覚えている自信がなくて問う形になったが、金色の瞳を丸くした後大きく何度も頷かれて、豪炎寺はほっとした顔をした。
どこかぎくしゃくとした動きで歩み寄る剣城の顔は、熱でもあるかのように赤い。さっきまではそんなことなかったはずだが、と首をひねる豪炎寺の前に立った剣城はわなわなと口を震わせる。

「あ、あ、あの、あの…」
「うん?」
「サ、サインください!」

差し出されたシャツに負けず劣らず赤い顔をして、剣城は勇気を振り絞った。豪炎寺はきょとんとしている。

「俺で、いいのか?」

Tシャツを握りしめたまま詰め寄る剣城の真剣さと言ったら、試合の時以上じゃないかと思わせるほどだ。

「豪炎寺さんのが欲しいんです!俺、俺、豪炎寺さんみたいになりたくて、兄さんと一緒に練習してたんです!」
「そ、そうか」
「お願いします!」

頭を下げてシャツとペンを捧げもつ。まるで告白しているような光景だが、残念ながら愛は愛でも敬愛の愛だ。そのままの体制でじっと返事を待つ。
芝生を眺めている間に、剣城も少しずつ頭が冷えてきた。憧れの人に会えて感激していたのだが、興奮して先走りすぎたかもしれない。いきなりサインなんか求めて、図々しいと思われてしまっただろうか。
ざあ、と顔から血の気が引いていく。指先から冷えていく。どう、しよう。
シャツを持った手を引こうとしたとき、引っ張られる感触があって剣城は頭を上げた。豪炎寺が恥ずかしそうに目を反らしながら呟く。

「……言っておくが、サインなんかしたことないし、あまり字も綺麗じゃないからな」
「……!」
「ただの名前だぞ」
「いいです!むしろ嬉しいです!日付もお願いします!」
「……今は一体何年の何月何日なんだ」

グラウンドから出て端に寄り、膝の上で書きにくそうにしながら名前と、言われるがまま日付を書いていく豪炎寺を剣城が眩しいくらいに輝く瞳で見つめる。

「……そういえば、剣城には兄さんがいるんだな」
「えっ」
「さっき自分で言ってただろう」
「あ、えっと……はい」

ペンのキャップを閉め、裏移りを確認して豪炎寺はシャツを畳み直す。剣城に手渡すと砂を払い落としながら立ち上がった。

「俺は妹がいるんだ。兄さんのこと、好きか?」

問い掛ける豪炎寺の涼しげな横顔は雑誌に載っていた姿とも、繰り返した映像とも似ているようで違う。違うけど、憧れの姿だ。

「…はい」

剣城は頷いた。豪炎寺は笑う。

「そうか」

どこか優しげな笑顔に見覚えがある気がして、剣城の胸は締め付けられる。

「……あの、兄さ…兄にも会ってもらえませんか。兄も豪炎寺さんのファンなんです」
「ああ、かまわない」
「ありがとうございます」

剣城がまた頭を下げる。豪炎寺はその背中を軽く叩いてサイドラインを越える。

「それより今は練習に集中するぞ」
「…っ…はい!」

剣城はその背中を追いかける。背負う数字が違っても、豪炎寺の背中は大きかった。



―――
10月10日ってことで新旧十番のふれあい。

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