♯ファントム・ペイン(聖帝=豪炎寺設定)
2011/09/02
「……申し訳ありません、聖帝。帝国学園が裏切りました」
フィフスセクター本部はいつだって薄暗い。表情がはっきりと見えないほどの明度になっているのは他ならぬ聖帝、イシドがその明るさを選んだからだった。
黒木がハットを脱ぎ、深々と腰を折る。
先日の帝国学園と雷門中学の試合は、帝国学園の敗北で終わった。忠実な配下であったはずの男は身中の虫だったのだ。
もちろん、たかが末端に食い荒らされるほどフィフスセクターは小さくない。聖帝の地位と信望は少したりとも揺らぐことはなかった。
しかし、裏切られたのは事実。黒木はイシドの言葉を待った。
「ああ、そのようだな」
大して興味がそそられなかったのか、イシドの声はあまりにも平坦で平常通りだ。黒木は身体を起こさない。
「ただちに帝国学園を潰します」
「いや、いい」
「しかし…」
「いい、と私は言ったのだが?」
反射的に頭を上げた黒木に、イシドはわずかに語尾を上げることでその言葉の続きを黙殺した。
イシドは王である。フィフスセクターという組織においてイシドはどこまでも支配者であり、絶対者である。そしてフィフスセクターが支配する中学サッカー界の中でもまた、イシドはその頂上に立つ。イシドに逆らうことは許されない。
「それに、こうなることは分かっていた」
「それは…?」
黒木の疑問にイシドは笑みを浮かべて答えた。
「あの男がおとなしく飼い犬でいるとは思っていなかっただけの話だ。賢い男だと思っていたが、あれもまた理想論にしがみつくだけの哀れな愚者だったというわけか。シードたちも可哀想にな。頭の良い男の下でのサッカーは楽しかったろうに」
「は…」
「シードたちを連れ戻せ。いずれあの男に追放されるだろう」
「かしこまりました」
「さがれ」
もう一度深く身体を折ると黒木は部屋を出て行った。王の間にはイシド一人。
「……きっと、お前ならそうすると思っていた、鬼道。円堂もお前も、もはや敵だ。いや、お前たちにとって私が敵なのか」
イシドの声は壁にぶつかる前に広い部屋に拡散する。
「どうして胸が痛むのだろう。とうの昔に覚悟をしていたはずなのに」
困ったように顔を歪めて笑う姿は、十年前と少しも変わっていなかった。
―――
水曜日のアニメ見てぶわっと、ていうかぐわっときた。もしも豪炎寺だったらこういうことだよね。でもこの展開はひどいからそうならないほうが嬉しいね!
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