ニュクスの沈黙(風豪)

2011/08/29


ぎし、と床板が軋む。足音を忍ばせていたつもりだったのに、それは思っていたよりも大きな音のように聞こえてベッドの住人の様子を窺う。足を止めて息を潜め、寝息が聞こえるか探る。
まるで短距離走をしている時のように速い心臓の音がうるさい。いや、うるさいはずはないが、なんだか気に障る。この音すらも外に漏れていそうな気になるからか。
風丸は深く息を吸って細く吐き出す。少しだけ速度を緩めた心臓のせいで上がった体温も一緒に出て行けばいいのに。
幸いにも目指す地で眠る人は起きなかったようで、健やかな規則正しい呼吸が聞こえる。細心の注意を払って、もう一度足を踏み出した。
さっきは失敗したが、コツはつかんだ。体重を平行に移動させる気持ちでつま先で床を探るといい。
そうしてゆっくりとベッドサイドまでたどり着いた風丸が、シーツの繭に包まれている人の顔を覗き込もうと枕元に手をついた時だった。

「…夜這いはお断りしているんだが」

静かな声に笑いを含んで、ぱちりと目を開く。風丸の表情が面白かったのか、楽しげに口角を上げた。

「……なんだ、起きてたのか豪炎寺」
「さっき目が覚めた」

身体を起こそうとはしないが、豪炎寺がもぞもぞとベッドの中で体勢を変える。風丸のほうを向いて寝転ぶと、枕元の手に手を重ねた。

「どの辺から?」
「部屋に入ってきた辺りから」
「ほぼ最初からじゃないか。気をつけた意味がないな」

風丸が苦笑する。豪炎寺が身体をずらしてスペースをあけた。何気ない動作で招かれ、風丸がベッドに乗り上げる。

「夜這いのつもりはなかったんだぜ」
「じゃあどうしてこんな時間に部屋に入ってきたんだ?」
「おやすみのキスをし忘れたと思って」

同じシーツに潜りこみ、互いの呼吸を間近に感じる距離で身体を落ち着ける。真面目な顔で言う風丸に、豪炎寺は眠気が勝った表情で笑う。あたたかい頬を撫でると嬉しそうに目を細めるものだから、露出された額に口付けた。

「おやすみ」



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一緒に眠るネタが好きです。

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