鬼と帝と(鬼道総帥と聖帝)

2011/08/23


「お前が上に立つようになるとはな」

揶揄するように笑いを含んだ声が広すぎる空間に響く。段の上で玉座に座る男を見上げて鬼道は口角を上げた。
気だるげに足を組む男は、鬱陶しいという表情を隠そうともせずに鬼道を見下ろす。十年前より確実に成長した鬼道の後ろで回るホログラムの青い地球は、あの頃彼がしていたマントよりも淡い色をしている。
長すぎたのだ。

「ふん。お前こそ帝国にとんぼ返りじゃないか。結局お前は変わらないということだ」
「お前も、と言いたいところだが、ここまで劇的に変わられてはな。お前が組織を率いるなんてどういう風の吹き回しだ」
「どう?そうだな、風が吹かなかったということにでもしておこうか」

足を組み替えて男は姿勢を直す。この高みに立つことが出来るのは一人。この先もずっと男はここに座り続けるつもりだ。どんな手を使おうと、どんな結果になろうと、どんな犠牲を払おうとも。
こうして座っているとまるで影山の後を追っているかのようで、男は笑わざるを得なかった。
あの哀れな男と同じ道を辿るというのか。信ずるものもなく世界を呪ったまま朽ち果てると。目の前に立つ鬼道もそのための駒のように思えてくる。
全ては定めだとでも言いたいのか。

「予言しよう。崩壊するぞ」
「鬼道の予言は当たりそうで恐ろしいな」
「思ってもないことを口にするのはやめるべきだな」
「始めから崩壊など見えている。望みはここには無い」

男の発言に鬼道が眉をひそめる。男は左耳につけたイヤーカフを撫でた。紫と緑の石。穴を開けたときに覚悟はとうに決めている。甘さは置いてきた。ここにあるのは誓いのための厳しさだけだ。

「…お前は昔から頑固だったからな。分かった。次の試合、望むがままの結果をお見せいたしましょう。聖帝」
「期待している」

礼をして辞去する鬼道の背中にはマントはもう無い。
長すぎたのだ、バラバラになっていた時間が。変化には十分だった。男は目を伏せた。



―――
明日になる前にやっておこうと思って。

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