ドッペルゲンガー(聖帝と豪炎寺)

2011/08/17


少年の時よりも高くなった身長と、それに見合うだけついた筋肉が青年の身体を均整の取れたものにした。正装ほど堅苦しくないがあまりラフではない服装の上からでもそれが分かる。
フィフスセクター本部に招かれた豪炎寺は、豪奢な椅子に所在なげに腰を下ろしていた。豪邸にあるような長いテーブルの向かいに座っているのは、彼と同じ顔をした青年。この組織の頂点に立つ男、イシドシュウジだ。

「まさか来てくださるとは思っていませんでしたよ」
「あいにく理由もなく招待を断るほど失礼な人間ではないと自負していてな」

同じ顔からほとんど変わらない声が発せられる。不敵に笑う豪炎寺と不遜に笑うイシド。二人のシルエットは全く重ならない。
目の前で用意された紅茶に豪炎寺はレモンを沈めた。

「それで、フィフスセクターの聖帝さまがわざわざ本部まで招いて一介のサッカー選手に何か用ですか」
「はは、ご冗談を。あなたを一介のと言い切るにはそれこそ神と同じだけの立場が必要でしょう」
「へえ、違うのか」
「ええ。わたしなどたかが一組織の人間ですよ」
「日本の中学サッカー界を支配しておきながら?」

互いに笑ってはいるが談笑と言うには程遠い内容は、まるでフィールドでフェイントを掛け合っているかのような緊迫感に満ちている。
戸口の傍に控えていた部下が空気が冷え込んできたような錯覚を起こして身体を震わせた。空調は完全に管理されている。温度が変化するわけがない。
くるくるとティースプーンでレモンをかき回していた豪炎寺だったが、飽きたように手を止める。代わりにイシドがミルクを紅茶に入れる。

「……支配をするのは人間の業ですよ。神は支配などしない。意識せずともそれは成されている」
「宗教論なら鬼道としたらどうだ」
「あの男は面倒なのであまり得意ではないのですよ」

イシドが肩をすくめる。豪炎寺は笑った。

「それで、俺をここに呼んだ理由は?」
「あなたを幽閉したいと思いまして」
「ずいぶんとまたストレートな言い方だな」
「回りくどいのはお嫌いでしょう」

イシドが笑う。ミルクの入った紅茶は濁った。豪炎寺の紅茶は赤く澄んでいる。

「俺を幽閉しても何にもならない」
「そうでしょうか。あなたは伝説の一端を担った、いわば英雄だ。その存在の影響力はあなたが思っているよりもずっと大きく、また強い」
「だからお前が俺と同じ顔と声をしていると?」
「わたしがあなたに成り代われば、あなたの力は全てわたしのものになる」

すっかり冷めた紅茶に口をつける。渋くなってしまったそれは舌に奇妙にまとわりついた。
カップとソーサーが触れる音がかた、と微かに鳴る。

「俺のフリをするということか」
「違う。わたしがあなたになるのだ」
「そのために顔と声まで変えて?」

イシドは優雅に笑った。

「あなたには最上級のもてなしをすることをお約束致しますよ」
「そこにサッカーは含まれるか?」
「我がシードたちであなたのお相手になるかは分かりませんが、最善を尽くしましょう」

豪炎寺は小さく溜息をついた。早く事が片付かない限り、ここからは出られない。それまでいた世界から隔離されることは何度も経験したが、ここまで強引なものは初めてだ。
これもまた変革の予兆なのだろう。あの時も世界は大きな変化を迎えたのだから。
豪炎寺は角砂糖を口に放り込む。塊は唾液を吸ってばらばらに崩れた。



―――
聖帝と豪炎寺。聖帝が誰かも何が目的かも何も決めてないです。豪炎寺はとりあえずプロ。
内容がないよう。

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