育つ芽(ユーカリシリーズ)

2011/08/01


記憶に蓋をしてリセットをかけた。結果『豪炎寺修也だったもの』は言葉以外の全てを忘れた。それは彼をリセットしたグランにとっても予想外で、だからこそ面白かった。

「豪炎寺くん、ってもう呼べないね。君に新しい名前をあげたことだし。ね、   」

一時的にガイアのユニフォームを着て座る少年の待遇は決まっていない。マスターランクに入ることは決まったが、バーン、ガゼル、そしてグランのそれぞれが所有権を主張して平行線を辿っているのである。
当の本人は今までの彼とは全く違う少年のように幼い表情で、与えられたボールを膝の上に乗せて撫でている。確認すれば自分がサッカーをやっていたことすらも忘れていたが、何か感覚に訴えるものでもあったのだろうか。妹を傷つけ、自らをこんな状況に追いやったものであってもまだ恋しいか。なんと業の深い。グランは口元に微かな笑いを上らせる。

「君は俺たちの誰と一緒がいい?」
「…分か、りません」
「そう。でも君は俺たちの誰かのモノになるよ、必ずね」

少年は顔を上げた。グランの暗鬱とした瞳を覗き込み、首を傾げた。少年の瞳に感情はこもらない。感情も『やり直』さなければならない。

「グランさまは、俺がいらないですか」
「どうして?」
「何も見てないから」

何も映さない瞳が向かい合う。グランは少年の頬を撫でて優しい顔で笑った。表情を作るのは簡単だ。筋肉を少し動かして写真や絵と同じ形にすればいい。そこに感情の有無は必要ない。そして少年もそれを真似してか笑いの顔を作った。

「…聡いね。君が俺のチームに来たら面白いかもしれないな」

ほんの余興のつもりだった。強いなら仲間にしてしまえば面白いかもしれない。そして敵として彼らの前に立ちはだかったらどんな顔をするだろう。そんな思い付きの行動だったのに、予想以上に愉快なことになってきた。
グランは笑う。来たる絶望の日が待ち遠しくて仕方ない。



―――
ユーカリが書きたくなったので。もっと絶望の方向にもっていきたいんですけどどうしたらいいのやら。


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