クロノスにも変えられない(年齢操作不豪)

2011/07/29




「おにーいさん、今ヒマァ?」

揶揄するような声に溜息をつきながら振り返る。ひらひらと手を振りながら笑う男がそこにいた。男といっても豪炎寺と歳は同じだ。二人とも子供じゃなくなった、ただそれだけのことである。
あの頃のように奇抜な髪型をやめた不動が豪炎寺に近付く。上着のポケットに片手を突っ込んだままなので、少々柄が悪く見える。
心配そうな顔をするチームメイトが豪炎寺の腕を掴んだが、苦笑して友人だと伝えると手を離してくれた。歩み寄ると不動はニヤニヤと笑う。

「好かれてんねー」
「不動の見た目に問題があるんだ」
「俺は一流サッカークラブのエースさまに近付く不審なヤツってことか」

ひょいと肩をすくめて、それ以上そのことに言及しなかった。知り合ったばかりの頃の不動なら、きっと大きな声で当て付けるように独り言を口にしたことだろう。
時間は人間を変える。自分もそう思われているのだろうか、豪炎寺は口に出さず思った。

「で、どうなんだよ、ヒマなの?」
「練習は終わりだ」
「じゃあメシ行こうぜ」
「分かった。着替えてくるから少し待っててくれ」

なるべく早くなーとぷらぷらと手を振る不動に見送られ、豪炎寺は控え室に向かった。
不動はたまにふらりと現れては食事に誘ってくる。それを他の友人に話したところ、そんなことは一度もないと言われた。仲が良いだろうと思った鬼道と佐久間ですら、最近不動の名前を聞いたことがなかったらしい。
しかし豪炎寺を誘いに来る。今日のように。不動の考えることはさっぱり分からなかったが、嫌われていないことだけは確かなようだ。
豪炎寺が外に出ると不動はタバコを咥えていた。

「不動」
「ん」

ちょうど火をつけようとポケットから出したばかりだったライターをもう一度押し込んで、不動はタバコを口から離した。

「なんだ、一服できるかと思ったけど早いじゃん」

同じポケットから白地に赤い字の書かれた箱を取り出してタバコをしまう。手慣れた動作に、吸い始めたばかりでないことが窺えた。

「タバコ吸うんだな」
「ん、まあアンタと違ってサッカー続けているわけじゃねえから」

でもアンタの前じゃ吸わないぜ、と不動は言った。タバコが肺の機能を鈍らせることは、この世界に限らず誰でも知っていることだ。だからスポーツ選手の喫煙者はほとんどいない。
それをおいても不動が豪炎寺の身体を気遣ったという事実に、豪炎寺は驚いた。思わずまじまじと見つめると、不動がぶすくれた顔をする。

「んだよ」
「いや、そんな優しいこと言われると思ってなかったから」
「ばっ…優しいとか言うんじゃねーよ!」

不動が顔を赤くして叫ぶ。そういえば褒められ慣れていない少年だったが、そこは変わっていなかったようだ。豪炎寺は笑う。

「不動が優しいから今日の食事は俺が奢る。何がいい?」
「だから優しいとか言うんじゃねーっつってんだろ!」
「で?」
「……肉」

二人は肩を並べて人の流れに乗った。



―――
未来というかifというか。不動と豪炎寺はカップリングらしい甘さはなくても親しさはあると思う。それこそ悪友的な。


あとアンケートはじめました。ただの疑問なので軽く答えていただければ嬉しいです。

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