死因:片想い(立→豪)

2011/07/23


しとしとと雨が降る。窓の向こうは灰色にくすんでいて、建物ごと水溜まりの中に沈んでしまったかのようだ。吸収されてしまうのか、それともみな黙りこんでしまうのか、ひどく静かで眠っているような気さえしてくる。唯一ある音は立向居が動かすシャープペンシルが紙を引っ掻くものだけ。
いや、正確には違う。微かな呼吸の音も耳に入ってくる。ちらりとその音の出どころを見る。ベッドに腰掛けて本のページをめくる人のすらりとした横顔が目に入って、心臓が跳ねる。何度見ても立向居の胸は高鳴るばかりで、むしろ回を増すごとにひどくなっていく。
この気持ちが何か分からなかった立向居も、これがいわゆる恋だということはうっすらと感じていた。苦しくて辛くて、と話は聞いていたが、本当はどうやら違うらしい。
だって、思うだけで幸せになるのだ。胸があたたかくなって心がいっぱいになる。これが恋ならすごく素敵なものじゃないか。
ただ、思うだけで満足出来なくなると辛いのだろうな、とも思う。そうなったらきっと、苦しくて辛いものになる。立向居は漠然とその日が遠くないことに気がついていた。
ペンの音が止まったことに気付いたのか、その人が顔を上げる。目が合った。どきっとした。

「どこか分からないところでもあったか?」

その人、豪炎寺は本を閉じて立ち上がる。
雨のせいで今日だけ練習は休みだ。修練場に行った者もいれば、宿舎に留まって勉学に励む者もいる。立向居は後者だった。
世界大会に出場するとはいえ、彼らはまだ義務教育を受ける身。学生の本分を疎かにしてはならないと、きっちりと課題が出されている。量はそう多くないとはいえ、練習に追われる日々ではコンスタントにこなすこともままならない。ちょうどいいと、溜まってしまった課題を消化するために、立向居は留守番を申し出た。すると、豪炎寺も一緒に残ると言い出したのである。もちろん円堂がしつこいほどに誘ったが、すげなく断られて他の者たちと修練場に出かけていった。
どうして豪炎寺が残ったのか、立向居はこっそり尋ねた。

「俺だって課題があるからな。約束して送り出してもらったのに、また取り上げられたらかなわない」

豪炎寺は肩をすくめて言った。約束という言葉に引っ掛かるものを感じたが、父親といざこざがあったことを立向居もうっすらと聞いていたので踏み込むことはしなかった。
そのまま流れで一緒に課題をやることになったのだが、豪炎寺はあまり溜め込んでいなかったらしく、立向居を尻目にさっさと終わらせて読書になだれこむ。二人ともほぼ無言だが、課題に集中していたから問題はなかった。
しかし、一度つまずいてしまうと集中力はどこかに消えてしまう。少し書いては手を止め、を繰り返していたことに豪炎寺が気が付いた。

「今やってるのはなんだ?」
「英語、です」
「今から引っ掛かってると次の学年で困るからな、苦手は無くしたほうがいい。特に英語と数学は」
「そうですよね…」

見せてみろ、と豪炎寺が立向居のノートを覗きこむ。にわかに近付いた距離に心臓が跳ねる。全力疾走する心臓のせいで急上昇した体温に頬が熱くなる。

「それで……立向居?」
「え、あ、はい!」
「珍しいな、お前が話を聞いてないなんて」

豪炎寺が微笑む。無防備に見せられた表情に、衝動的に身体が動いた。腕を掴み、立向居よりはシャープな、しかしまだ子供らしいラインの頬に唇を寄せる。
滑らかな肌の感触に我に返り、自分が何をしでかしたのか気が付いた立向居は、顔色を赤に青にと忙しく変えながら椅子を蹴って立ち上がった。

「す、すみません!」

そのまま部屋を飛び出して逃げる。これが恋なら、とんでもなく苦しいものだということを立向居は理解した。
ずっとこんなに心臓が早いなら、告白の前に死んでしまいそうだ。



―――
書きかけだったものに手を加えたら思ったよりも長くなりました。あれ?
立向居純情少年すぎて辛い。

返信不要でしたがコメントありがとうございますー!すごく嬉しいです!

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