夢見る子供たち(立豪)

2011/05/17

日本よりも赤道に近いライオコット島の気候は熱帯に属する。湿気はそれほど高くはないがとにかく気温が高い。それは夜になっても変わることはなく、蒸し暑さにうなされることもある。
暑さで目が覚めた立向居は食堂にふらふらと向かう。喉が渇いて仕方ないのだ。まぶたが重い。でも喉がひりつく。水を飲めばまたぐっすりと眠れるだろう。
足を引きずるようにしながら歩いていくと、先客がいた。状況は同じだ、同じ行動をする誰かがいてもおかしくない。半分も開いていない目をこらしてそれが誰かを確かめる。色素の薄い髪はいつもよりも元気がなく垂れ下がっていた。

「豪炎寺さん……?」

ぽつりと呟いたはずの声は、静まり返った夜の中ではそれなりの大きさで聞こえるようで、豪炎寺が振り返った。ガラスのコップがかたりとテーブルとぶつかって音を立てる。

「眠れないのか」
「いえ、ちょっと喉が渇いて」
「同じか」

豪炎寺が微笑む。空になったコップにピッチャーから水を注いで立向居に差し出す。

「ほら」
「あ、ありがとうございます」

受け取って口を付ける。渇いた喉に冷たい水は、まるで飴のように甘い。一滴すら残さないようにとコップを傾ける。ごくごくと喉を鳴らして一気に飲み干すと、身体中に水が染み渡っていくようだ。最後のひと雫を流し込んでコップを唇から離す。溜息もどこか冷えている気がする。

「豪炎寺さんはもういいんですか」
「ああ、先に飲んでたからな」

言われてはたと気付く。これはもしかして間接キスというやつではないだろうか。せっかく下がったはずの体温がまた上がっていく。ほんのりと赤くなった頬にコップをくっつけるとひんやりしていて気持ちがいい。これでどうにか誤魔化せないだろうか。ちらと見た豪炎寺はまぶたが重いのかいつもよりも柔和な顔をしている。

(うわ、うわっ)

反則だ、と立向居は更に顔を赤くする。豪炎寺は静かに立向居の手からコップを受け取るとそれを流しに置いた。

「もう寝ないと明日に響くぞ」
「は、はい」
「行こう」
「え?」

寝ぼけているのか豪炎寺は立向居の手を握ると歩き出す。すべらかな手は温度がわずかに低い。不意に訪れた手を繋ぐという大きな事件に立向居はもういっぱいいっぱいだ。ぐるぐると脳内で巡るさっきの出来事もそれに拍車をかける。
そうこうしているうちに部屋についたが、立向居の部屋ではなく豪炎寺の部屋だ。ようやく手を離してもらえるかと思ったのに、豪炎寺はそのまま部屋に入っていこうとする。

「ちょ、ちょっと豪炎寺さん!」
「立向居、夜なんだから静かにしろ」

慌てて片手で口を塞ぐが、うまく論点をすり替えられてしまった。ぱたん、扉が閉まる。豪炎寺はベッドから掛け布団を剥がすと床に放る。ここでやっと手は離された。

「あのー…豪炎寺さん?」
「さて、寝るか」
「いや、あの」

豪炎寺は床の上に座り込んで掛け布団を膝まで引っ張ると、隣をとんとん叩く。寝ぼけているせいか、妹にしてやっていることとごちゃまぜになっているのかもしれない。眠たそうな、それでも澄んだ目がじっと立向居を見つめる。こんな目で見られては折れる以外の選択肢があるはずもない。立向居はおとなしく布団に潜り込む。
フローリングの床はひんやりしていて気持ちいいが、固いので起きたとき辛いかもしれない。豪炎寺はもう半分以上夢の中だが、ぽんぽんと立向居の腹を優しく叩く。寝かしつけているつもりなのかもしれない。
こんなに甘やかされてしまうと立場がないので、明日は愛されていることをたくさん実感させてあげようと思いながら、立向居も眠りに落ちた。



―――
げろ甘。立豪はらぶらぶできるから好き。

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