大人と豪炎寺(小ネタ)

2011/04/09

 

二階堂と

「早く大人になりたいです」
「みんないつまでも子供だよ。誰だって親の前じゃ子供だ」
「それは詭弁です」
「難しい言葉を知ってるなぁ」
「誤魔化さないでください」
「本当に子供だよ。ただ、見ないふりが上手に出来るようになるだけだ」
「俺の気持ちもですか」
「ごめんな」



瞳子と豪炎寺

その子供が澄んだ目をしていたのが不思議だった。環境に恵まれていたように見えるが、彼の長くはない人生は決して平坦ではなかった。母を幼少期に亡くして父は家庭を省みず、妹は事故に遭い一年間意識を取り戻さずにいた。これだけ見てもひどい話だ。その上妹の事故の遠因は自身だという。絶望してもおかしくはなかっただろうに、なんと美しい目だろう。彼の纏う炎のように澄み切った、混じりけのない純粋な熱さ。どこまでも真っ直ぐな光。この少年もまた希望の子であり光なのだ。わたしには眩しいほどの、強さを抱く子供。
「監督、ありがとうございました」



響木監督と

「いい顔だ」
「え」
「なんもかんも吹っ切れたか」
「なんの話ですか」
「最初に会った頃よりもずっといい顔をしてる」
「そう…でしょうか」
「もう迷わんな」
「…はい。もう決めました」
「それでいい。お前さんのしたいようにすればいい」
「ありがとうございます、響木さん」



久遠監督と

「最初に言った言葉を覚えているか」
「レギュラーと認めない、ですか」
「そうだ。お前は一年生のときから名門木戸川清修でレギュラーだったから、驕りが生じてはならないと思った」
「レギュラーじゃなかったことくらいあります」
「確かに、驕りには遠かった。代わりに主張が足りなかったな」
「主張?」
「フォワードはどこまでも貪欲にボールを求めろ。ゴールを欲しろ。誰よりも主張するべきポジションだ」
「…それは」
「こちらがうんざりするくらい主張しろ。この先、絶対に必要なことだ。お前が世界で通用するためには」
「は」
「練習を再開する」



勝也と

少年は父を見上げた。厳格な父。笑う姿など何年見ていないことだろう。彼の顔の筋肉は硬直してしまったのではないだろうか。うっかり口に出そうものなら怒られそうだから言わないが。そういえば昔はよく駄々を捏ねた。母が夕香に掛かり切りだから少し淋しかったのだ。父はなんだかんだ言って相手をしてくれたし、我が儘に困らせたこともあった。懐かしいと思うほど長い時間が経ったわけではないはずだが、思い出すと胸に込み上げるものがある。父はどうだろう。今我が儘を言ったら怒るだろうか、困るだろうか、仕方のないやつだと笑ってくれないだろうか。
「……父さん、」



―――
一番最初の会話がやりたかった。

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