戦争パロ(小説)

2011/04/03

もう一回のボンゴレーノ麹さんの戦争パロの設定で書いた話です。ロココと豪炎寺。



朝起きて、ようやく自室と違う天井に戸惑いを感じなくなった。幾度迎えたか分からない敵国での目覚めだが、命を狙われる恐れがないというのは奇妙なものだ。豪炎寺は身体を起こすと頭を軽く振った。

「あれ、もう起きたの?」

どこか子供らしさの抜けない声が部屋に満ちている朝のぼやけた空気を揺らす。立派な体躯に似合わない高い響きにも、ようやく慣れた。入り口に青年が立っている。

「むしろ遅いぐらいだ。本来なら鍛錬が始まってなければいけない時間だからな」
「熱心だね、ゴウエンジは」

にこりと笑う青年は豪炎寺の所属する国と敵対する国、つまり今いるこの国の将軍である。ロココという名前のその青年の無邪気な笑顔に、豪炎寺はつられて微かな笑いを返す。
捕虜なのに破格の扱いを受けているには何か思惑があるのだとは思うが、この青年と過ごす館での生活は、存外に楽しくて居心地がよい。こうして牙を抜くつもりなのかもしれない。それならば完璧に術中にはまっていると思いながら、豪炎寺が口にしたのは別のことだった。

「ロココこそ。汗をかいている」
「あは、バレた?」

ちょっとだけやってきたんだ。頭を掻きながら照れたようにロココは笑う。その表情にどこか見覚えがあって、豪炎寺は無性に胸が締め付けられたような気がした。
この青年は誰かを思い出させる。誰か一人というわけではない。誰かしらの面影をいくつも内包しているのだ。彼は戦場にありながら、歪みの少ない奇妙な存在なのかもしれない。

「ゴウエンジ、ご飯にしよう」

はっとしたように顔を上げる。ロココは頬についた泥を指先で軽く拭った。自国では見たことのない紺色の髪と小麦色の肌が、豪炎寺の心が揺れるのをどうにか留めていた。振り払うように目を閉じると、次に開いたとき、豪炎寺の瞳は静けさを取り戻していた。

「そうだロココ、今度は俺が作ってもいいか?」
「君が?」
「ああ。故郷の味が久しぶりに食べたくなったんだ」

ベッドから立ち上がりながら豪炎寺は言う。聞き慣れない異国の鳥の鳴き声が窓から聞こえる。今日もまたここで、知らない一日が始まる。





そしてこっちは麹さんが書いて下さった、やっぱり戦争パロの立豪。



立向居が立ちはだかったのはそれまで彼が敬愛してやまない王であったという事実は、まるで、幻想のようであったとも思える。たとえばこれが立向居以外の誰かであったならばそれはある意味での笑い話として一蹴されるべきであっただろう。しかし、その当人が立向居であるという事実だけがその事実を何よりも歪める要因となっていた。

「立向居?」

円堂の声が響く。現の王である円堂の声は光よりも早く立向居の脳髄を突き抜けて現実を突き立てる。しかし立向居はそれに対しても両足を地に着け続けることで反抗を試みる。

「俺に逆らう?」

円堂は至極冷ややかな言葉で立向居の心を砕こうとする。しかし試行でしかない。立向居は円堂の心を砕こうとする意志こそに反論しようとしている。立向居の脳内でも、円堂はもはや絶対の王ではない。

「違います」

立向居は強く呟く。矛盾した行為を行うのは、いつだって楽だった、と立向居は自覚している。平和がほしくて戦う。笑ってほしいから苦しませる。立ち上がってほしいから手を伸ばさない。それらの矛盾した、子供と大人を内包した望みが立向居の今までだった。

「俺はただあの方に俺と同じ世界を見てほしい」

だからこそ、立向居は剣を抜く。

「俺は、あの方に、そんな世界を見てもらうために、戦ってきた訳じゃありません」

最後に笑っていってほしいから足掻いたのだ。泣いてほしくて戦ってきたわけじゃない。誰にも認められなくても立向居が諦められなかった願望を踏みにじろうとしているのが円堂であることに、立向居は憤りを覚える。それよりも強いのは、こんなことになるまで何も行動をしなかった自分自身だ。

「こんなの、誰も幸せになれない」

虎丸のように面と向かって豪炎寺に向かう感情を吐露できた訳でもない。鬼道のように影から支える道を選んだわけでもない。ただ、遠くから、あの人が幸せになるだけの世界ができる過程を見ていたかった。それが、自分たちの神様から与えられると信じていた。

「違う、神様なんかじゃない」

神様なんか居なかった。どこにもいなかった。信じるだけで助けてくれる神様は、最初からどこにもいなかった。居るとするならば、それは自分の心を支える、自分自身でしかない。

「俺は、俺として、立向居勇気一個人として、円堂守さん!あなたに挑みます!」

剣を抜き、その切っ先を円堂に向けながら立向居は叫ぶ。
まっすぐに突き抜けたのは円堂の視線でもない。ただ、立向居の曇り無い瞳だけが円堂の王座を揺らした。



―――
麹さんはやっぱりすごいです。

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