色とりどりの海(綱音豪小ネタ)

2011/04/12


「まだダメなのか?」
「まだまだ!」
「あと少しだから」

鼻まで覆う幅の広い布が豪炎寺の視界をふさぐ。
豪炎寺は今、綱海と音村に叩き起こされ、早朝だというのに外へと連れ出され、あげく、目隠しされてどこかに連れていかれる最中だ。二人に片手ずつ引かれているが、前が見えないのはひどく不安だ。自然と手に力が入る。何も言わずに二人が握り返してくれて、少しだけほっとする。
しかし、こんな時間に見せたいものとはなんだろう。しかも直前まで秘密だなんて。
豪炎寺はそっと首をひねった。
二人の足は止まらないし、導かれる豪炎寺の足も止まらない。沖縄に常に満ちている潮の香りとさざめく波の音が、強くなった気がした。
立ち止まる。どうやら目的地に着いたらしく、手が離れた。中途半端に浮いた手を腹の前で組む。風が頬を撫でた。朝だからかまだ涼しい。綱海が動きながら何事か話しながら動き回る。音村は指示を出すだけで動く気はないらしい。

「よし。準備出来たぜ、音村!」
「じゃあ外すよ」

後頭部の結び目に触れる手の感触。しゅる、と音がして布が緩んだ。

「目を開けてごらん」

音村の声が後ろからする。豪炎寺はゆっくりと目を開いた。
豪炎寺が立っていたのは大海原中に繋がる橋の上だった。
まだ昇りかけの太陽が投げ掛ける光が、波間に反射してちかちかときらめく。その上に散らばるのはたくさんの花だった。どこから集めてきたのだろうと思うほどの量で、光と合わせて宝石のように見える。花束にしたら花の中に溺れてしまったことだろう。
豪炎寺は言葉を失った。

「綺麗だろ?なんかのテレビで見てさ、やってみたかったんだ」
「大人ならここでプロポーズするところなんだろうけどね」
「告白なら出来るぜ」
「三人で?綱海はデリカシーがないな」

綱海と音村の掛け合いはテンポよく続くが、豪炎寺は立ちすくんだまま、太陽が上へ昇っていくその下で海を眺めていた。
言葉は無かった。綱海と音村も、豪炎寺に何も言わなかった。花が海に散り散りになっていくまで、何も。



―――
オチが行方不明なので小ネタで。

再アップです。ちょっとだけ手を加えてあります。

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