灯と旅する(ヒロ豪)

2011/03/15

 
その日、買い物に出かけた基山は腕に包みを抱えて帰ってきた。
どこかに出かけるときは久遠に報告する必要があるが、基本的に練習後や合間の休憩時間は自由に行動していいことになっている。基山のように買い物に出たり、他国の選手と交流を深めるものもいれば、練習に精を出すものもいる。
後者である豪炎寺は、汗を流そうと宿舎に入ってちょうど帰ってきたばかりの基山と出くわした。

「やあ、豪炎寺くん。今日も熱心だね」
「ああ、お帰り。ずいぶん大きな買い物だな」
「ただいま。素敵だったからつい、ね」

紙に包まれた何かは高さは三十センチ前後、横幅は二十センチほどだろうか。壺や花瓶のように見えるが、形が違う。

「何を買ったんだ?」
「見せてあげるよ、おいで」

どこか含んだ笑いを浮かべながら基山は踵を返した。階段をのぼる軽快な音が響く。
微かに躊躇いはしたが、豪炎寺も遅れて階段をのぼった。
二階では基山が部屋の前で立っていた。豪炎寺の姿を見て微笑むと、静かに扉を開ける。

「入って」

促されて入った基山の部屋は、中学生男子が使用しているにしては綺麗すぎるほどに整っていて、彼の性格が窺えた。
豪炎寺も私物は少ないほうだが、基山もほとんど持ってこなかったようだ。
サイドテーブルに包みを置いてベッドに腰掛ける。

「ちょっと準備が必要なんだ。手伝ってくれるかい?」
「かまわないが、何をすればいい?」
「部屋を暗くしたいんだ」
「部屋を?」
「そう、暗くないと出てきてくれないんだよ」

基山の言うことが分からず豪炎寺は首を傾げたが、とりあえず言う通りに雨戸とカーテンを閉める。後ろで包みを開けるがさがさという音が聞こえた。

「これでいいか」
「ありがとう。ばっちりだ」

振り返ると、基山の手元にはランプがあった。木製の土台には職人の手仕事だろうか、美しい彫刻が施されている。しかし、それ以外は特に変わったところは見られない。
彫刻を見せるなら明るいほうが良いのではないだろうか。豪炎寺はまじまじとランプを見つめる。基山が眉尻を下げて苦笑した。

「お願いばかりして申し訳ないんだけど、電気を消してくれないかな」
「ああ、わかった」

スイッチの前に立って基山を振り向くと、首肯が返ってきたので、豪炎寺はボタンを押した。一瞬暗くなる室内。カチ、と音がして再び室内が明るくなる。ランプがついたのだ。

「豪炎寺くん、上を見てみて」
「上?」

橙色の光が部屋を満たす。天井近くに現れたのは渡り鳥の群れだ。豪炎寺は目を丸くする。

「模様なんかなかったのに……」
「特殊な紙の貼り方をしているみたいでね、光をつけたときだけ見えるんだって」

一目惚れしてつい買っちゃったよ、基山は笑って言った。呆気にとられて立ち尽くす豪炎寺の手を取って、一緒にベッドに倒れ込む。
仰向けになって見上げれば、天井をぐるりと旅する渡り鳥の群れ。

「……綺麗だな」
「だろう?豪炎寺くんならそう言ってくれると思った」

基山が微笑む。音無が扉を叩きにくるまで、二人はそのまま鳥たちを眺めていた。



 



―――
信号症候群の管理人さんの暁ニャッキさんと合作を作ろう!ということになりまして、書き上げた話です。わたしの書いた話にニャッキさんが絵を付けてくださいました!
こういった合作をするのは初めてなので、楽しかったです。
これもツイッターのお題で、『模様』『群れ』『ランプ』を使うというものでした。いやはやなんとも。

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