樹海の糸(ヒロ豪)

2011/03/03

 
「俺はね、豪炎寺くん」

基山が呟いた。静かな声で基山は話す。耳を澄ましていないと聞こえないというわけではないが、円堂や綱海のように声が大きいわけでもないので、つい注意を向けてしまう。
そうして静かに話を聞く豪炎寺に満足げに微笑むと、基山は言葉を紡ぎだす。

「俺は、あの樹海の中で死んでいくんだと思ってたんだ」

殊更静かに発せられた声を聞いて、豪炎寺の眉が寄る。基山のそれはどこか笑っているような声だったからだ。
夢見るように柔らかな、穏やかな声。

「緑の中で、いつか骨になる。そして俺のことを誰も思い出さなくなって、ようやく俺は眠れるんだ、そんな風に考えてた」
「そんな話」
「昔の話だよ」

豪炎寺の言葉を遮って、基山は小さく笑った。豪炎寺は疑わしげに目を眇める。
彼のことをよく知るわけではないが、基山ヒロトという少年の背景を知っている。樹海の中で夢を見ていた。長くて短い、残酷で優しい夢。
豪炎寺の眉間に基山は触れる。しわを伸ばすように親指で撫で、薄い色の髪に指を通す。

「もうそんなことは考えてないよ」
「本当か」
「本当さ」
「……なら、いい」

なだめるように優しい手つきで基山は豪炎寺の頭を撫でる。
その手の白さに、豪炎寺は不安になることがあった。あまりにも白いから、いつか霧になって消えてしまうのではないかとさえ思ったことがある。触れれば温かいし、握り返してもくれる。

それでも、怖かった。

そんな豪炎寺の胸中など知らない基山は微笑む。

「そんなことを考えてるゆとりなんか無いよ。だって、今すごく楽しいんだもの」
「そうか」
「そうだよ」

そう言って、豪炎寺の額にキスを落とす。頬を包む手に自分の手を重ねながら、この手の温かさが夢になってしまわないように豪炎寺は祈った。



―――
ピクシブからまたもってきました。タイトルはこっこ。
こういうのが書きたいときだったんだ。

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