夏空、あなたのいる風景(立豪)

2011/03/02

※ちょっと未来の話です





「暑いな」
「はい」
「夏だ」
「そうですね」

豪炎寺さんは口元に微笑を浮かべている。どこまでも広がっている空の青さが目に痛い。眩しさに目を細めると、光が線になるのが見えた。
緩やかな坂道を、俺たちはさっきからゆっくりと上っている。空に向かっているかのようなこの道は、豪炎寺さんの生まれ育った家に続いている。
今は木戸川清修中を案内してもらって、豪炎寺さんの家に戻る途中だ。
俺は夏休みを利用して、豪炎寺さんのところに遊びに来ている。フットボールフロンティアは、以前よりもうんと強くなった雷門中が優勝して終わった。俺たち陽花戸中は地区予選の決勝で負けてしまった。悔しかった。すごく。
豪炎寺さんは部活を引退した。受験に専念しなければいけないのと、もう大会が無いからだそうだ。フットボールフロンティアインターナショナルには出るんですよね、そう聞いたら、どうだかなとかわされてしまった。
前から思っていたけれど、この人ははぐらかすのがすごく上手い。隠し事ばかりだし、自分の気持ちをあまり出そうとしない。
けれど、鬼道さんたちに言わせてみればこれでもまだマシになったほうらしい。去年の秋ごろのことを思い出したらそうなのかもしれないと思ってしまった。

「家に着いたらアイスでも食べようか」
「いいですね」
「好きな味はあるか?」
「そうですね、今はチョコミントとかソーダがいいです」
「じゃあ俺はバニラにしよう」

半分こできるだろう、そう言って豪炎寺さんはまた笑った。
この人の笑い方はすごくもろい。もろいと言うか、儚いというか、すぐ消えてしまいそうな気がしてしまう。そこにいるし、手を伸ばせば触れられる。それなのに、消えてしまいそうなのだ。
気のせいだとは分かっていても、俺はどうしても不安になってしまうのだった。

「立向居」
「はい」

豪炎寺さんがたた、と駆け出す。坂の上に立って、豪炎寺さんはガードレールの向こうを指差した。

「あそこにあるのが俺の通っていた小学校。サッカーに出会った場所」

すらりと伸びた手の先を見る。陽花戸よりは新しいけれど、歴史のありそうな校舎が建っている。遠いのに小さな子供たちの甲高い声が微かに聞こえた。
豪炎寺さんは優しげに目を細めている。何を考えているのだろう。俺には全くわからない。
入道雲の白と空の青。白いシャツを着て立つ豪炎寺さんの姿はまるで絵のようだ。
カメラを持ってきてないのを後悔した。俺のこの目がそのままビデオカメラになればいいのに。豪炎寺さんのことを録画していつまでも取っておける。
人間の脳味噌も見た光景をそのまま残しておけたらいいのに。

「……勇気」
「え、」
「やっぱりなし。今の聞かなかったことにしてくれ」

豪炎寺さんが顔を真っ赤にする。夏の暑さだけじゃない。

「しゅ、修也さん!」

恥ずかしそうに腕で顔を隠したまま、ばか、と小さく呟いたのが聞こえた。
蝉がじいじいと鳴いている。夏、だ。



―――
ピクシブから。
立向居と豪炎寺が出会ったときにはもう夏が終わっているので、二人が中学生の夏を過ごせるのは進級した後だけなんだなぁとしみじみ。

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