その時のために磨く牙(マク+豪)

2011/03/01

 
ライオコット病院で、珍しい人たちを見た。

「あ」
「あー!」

大きな声を出した円堂の頭は、非常に素早い動きで叩かれた。間髪入れずに、それも結構強く叩かれていたのでマークは驚いたが、円堂は悪いと眉尻を下げて謝った。
叩いた張本人はすみません、と長い髪を揺らしながら周囲に頭を下げている。長い付き合いなのかもしれない。一之瀬と土門のように。

「どうしたんだよ、お前ら。ケガ……じゃなさそうだな」

土門が問う。一之瀬の見舞いに来た土門、マーク、ディランたちとは違って、円堂たちが見舞う人はいなかったはずだ。
一之瀬があまり無様な姿は見せたくないと来訪を喜んでいなかったことを知っているはずだし、鬼瓦も退院したと聞いた。どう見ても健康そのものの円堂たちが病院に用があるとは、とうてい思えなかった。
円堂が口を開く。

「響木監督がさ、病院から様子見せに来てくださいって言われてたのにぜんぜん行こうとしないから、俺たちみんなで見張りながら来たんだ」
「響木さんが?まあ、あの人も頑固だしなぁ」

土門が苦笑する。頑固者には心当たりがあるからだ。マークとディランは顔を見合わせてクエスチョンマークを飛ばす。響木という名前に覚えは無かった。
『さん』という尊称がついているから、おそらく年上なのだろうことは分かった。
しかし、分かったのはそれだけだ。
土門と一之瀬にどんな関わりがあって、どんな人なのかは皆目見当がつかない。土門と一之瀬が日本にいたときのことは、二人には分からないのだ。

「じゃ、俺は一之瀬のとこに行くよ」
「ミーも!」
「病室には入らないから、俺も部屋の前まで行ってもいいかなあ」
「いいけど、絶対に見つかるなよ」

円堂にしーっとジェスチャーをして見せ、土門は病室へ歩き出す。円堂のお目付け役か、風丸もついていく。鬼道と豪炎寺、それにマークがその場に残った。

「行かなくていいのか」

鬼道がマークに話しかける。ひょいと肩をすくめ、マークは首を振った。

「さすがに多すぎる。あとでゆっくり会いに行くさ」
「それもそうだな。豪炎寺、俺は少し席を外す。すぐに戻ってくるつもりだが待っていてくれ」
「分かった」

赤いマントを翻し、颯爽と歩き去っていく鬼道。実にインパクトのある姿だが、コミックスのヒーローのようで少しかっこいいとマークは思っている。真似をしようとは思わないが。
エントランスに佇むマークと豪炎寺。二人の間に会話は無い。
豪炎寺はもともと寡黙だし、負けてしまったがライバルとして意識していたマークとしては、話しかけるのもつい躊躇ってしまう。どうしたものかと悩んでいると、豪炎寺が口を開いた。

「ここに立っているのも邪魔だし、座らないか」
「あ、ああ」

促されて待合室のベンチに並んで腰掛ける。マークは豪炎寺のことが気になって仕方が無いが、豪炎寺はそんな素振りなど見せもしない。意識していたのは自分だけだったと思い知って、悔しくなる。
それもそうだ。彼らは今や世界一の座を手に入れた。敗者になど用は無いだろう。
なんだかひどく惨めな気持ちになる。マークは俯き、拳を握った。

「グランフェンリル、すごい技だった」

静かに豪炎寺は言った。その声には哀れみも何もない。純粋な感嘆の響きだけだ。マークは顔を上げる。

「もしも一之瀬が万全の状態だったなら、勝てなかったかもしれない」
「……ゴウエンジ」
「仮定なんて役には立たないと鬼道なら言うだろうが、俺はそう思う。全力の一之瀬と、マークたちと戦って勝てるかなんて、やってみなければ分からないだろう」

怜悧な印象の横顔をじっと見つめる。髪の色に少しも似ていないダークブラウンの瞳は、まっすぐに前だけを見ている。
彼には見えているのだろうか、完治してピッチに立つ一之瀬と、ユニコーンとイナズマジャパンが全力でぶつかる光景が。

「……カズヤは強い」
「ああ、知ってる」
「最初の事故からだって蘇ったんだ、きっと今度だって戻ってくる」
「「不死鳥のように」」

声が揃う。驚いた顔をするマークに、豪炎寺は不敵に笑った。

「そうだろう、マーク・クルーガー」
「当然だ。そして来年、俺たちが世界一になる」
「奪いに来い。迎え撃ってやる」
「狼の牙は鋭いぞ」

静かな闘志を滾らせながら、二人の視線が絡み合う。マークは大きな声で笑いたい気分だった。



―――
ピクシブから持ってきました幾つ目だろう?まあいいか。
これはカップリングにしようとしたら失敗してライバル的なものになったんですが、こういう話もすごく好きなので結果的にはオーライ。問題ない。

戻る




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -