オレンジ色の笑顔(デモ→豪)

2011/02/28

 
「ポーンをbの6へ」

デモーニオは盤面を見ずに言う。豪炎寺は言われたとおりに黒のポーンを動かす。
一時的なものとはいえ、視力が急激に落ちたデモーニオとチェスをするとき、彼は頭の中で駒を動かす。目をなるべく使わないためだ。
実際に相手をする豪炎寺は、二人分の駒を移動させなければならない。デモーニオの駒を動かした後は、自分の駒を動かしてその場所を伝える。少し手間のかかる作業だが、動かすだけなら苦ではないので問題ではない。
それよりは、次の手のほうが問題だ。

「ゴウエンジ、次はどうする?」
「……ポーンをeの3に」
「ほう、面白い手だな。本当にゴウエンジは飲み込みが早い」

カタン、盤が鳴る。市松模様の上にそれぞれの思惑にあわせて配置された駒は、どこかパズルのようだ。
豪炎寺が見ている光景はデモーニオの頭の中と同じだろうか。聞いてみたい気もするが、少し怖い。

「そうでもない。いっぱいいっぱいだ」
「始めて三日なら上出来だ。ビショップをcの5」

豪炎寺の手が動く。小さく軽やかな音を立てるそれを、デモーニオは案外気に入っていた。騒々しくもなく、けれど静か過ぎるわけでもなく。音楽のように聞こえて、しばしば耳を傾けてしまう。
デモーニオの目は閉じられているが、彼の世界は暗闇ではなかった。音が、匂いが、色を感じさせてくれる。
豪炎寺の声は暖かみのあるオレンジ。赤よりの、でも柔らかな色。

「デモーニオ?」
「……ああ、俺の番か。gの7にルークを」
「gの7、だな」

念を押すように豪炎寺が繰り返す。首肯を返すと、とんと小さな音。続いて豪炎寺が唸る声。これは長くなりそうだ。
豪炎寺が考え込んでしまうと、音は一気になくなってしまう。静かな空間は好きだったが、それよりも声を聞いていたい。

「荷を、まとめているそうだな」

デモーニオは話しかけた。見えない豪炎寺が何をしているかは分からないが、なんとなく気配で頷いたのがわかった。

「ああ。もう大会は終わったしな」
「もう会うことはなくなるのか」

全てがあるべき場所に、元の場所に戻るだけだというのに、寂しさを感じてしまう。それはきっと、豪炎寺とのこの時間が楽しかったせいだ。デモーニオの胸はつきりと痛んだ。
しかし、豪炎寺はきっぱりと言った。違う、と。

「そんなことはない。空は繋がっている。お前がサッカーを続ける限り、俺たちは何度だって会える。そうだろう?」

デモーニオの目には豪炎寺は見えない。見えないけれど、はっきり分かった。豪炎寺は笑っている。

「……そうだな」
「来るときは教えてくれ。飛行機だろう?空港まで迎えに行く」

豪炎寺のまだ見ぬ笑顔を思い浮かべながら、デモーニオは頷いた。

きっと会いに行く。そのときはチェスじゃなくてサッカーをしよう。そして、笑ってほしい。オレンジ色の笑顔で。



―――
ピクシブから持ってきたやつです。ツイッターのお題で三つのキーワードを使って話を書くものがあったので、こっちにフリリクを上げる傍らピンときたお題を使って書いてました。書きたいって意欲が湧きすぎてたんですかねー。

戻る




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -