そんなの知らない(フリリク虎豪♀)

2011/02/09

 
「俺、豪炎寺さんのことすごく女の人っぽいって思うんです」

虎丸の言葉に豪炎寺は動きを止めた。
世界大会にマネージャーとして同行することになったとき、豪炎寺の胸中は複雑だった。
世界の一流プレーヤーの試合が間近で見られる。それは願ってもないチャンスだ。
しかし、豪炎寺はピッチに立てない。どれほど望んだところで豪炎寺が女である限り、不可能だ。
自分の性を恨んだこともある。受け入れようと思ってもどうしても認めきれなくて、悔しい思いばかりした。それでも豪炎寺は女である。性別は変えられない。分かっている。
だからこそ、虎丸の言葉は彼女に深く刺さった。肩に下げたクーラーボックスの紐がじりじりと食い込んでくる。

「……どこ、が」
「え、どこって、全部ですよ。姿も声も仕草も、何もかも」

無邪気な少年の顔で虎丸は言う。豪炎寺はクーラーボックスを担ぎ直す。中のスポーツドリンクのボトルが揺れた。ごとごとん、音がする。

「ののみ姉ちゃんとは違う、なんだかドキッとする」
「どこも、違わないさ」
「違いますよ!」

豪炎寺がようやく絞り出した言葉はあっさりと否定されてしまう。
虎丸は真剣な眼差しで豪炎寺を見つめていた。まだまだ子供っぽさが抜けそうにない丸く大きな瞳はきらきらと輝いて、豪炎寺をその中に映している。青みがかった世界に閉じ込められた姿は頼りなく見えて、豪炎寺は小さく息を飲んだ。

「豪炎寺さんのほうがずっとずっとキレイです!なんていうか、そう、神様。豪炎寺さんは神様みたいです!」

憧れとほのかな恋心を詰め込んで、虎丸は興奮したように叫んだ。
虎丸にとって、豪炎寺は尊敬の対象だった。まだ男女の差がなく混合でプレーしていたリトルユース時代、才能の片鱗を見せていた彼女の姿に目を奪われたのだと、初対面でこの年下の少年は言った。かっこよかった、キレイだった、まるで背中に羽があるみたいだった、天使。虎丸に真正面からぶつけられた言葉を豪炎寺は覚えている。
そして今度は神様。虎丸の目に自分がどう映っているのか、豪炎寺にはほんの一欠片でさえ理解できない。

「俺、豪炎寺さんのこと好きです。本当ですから!」

頬を赤くした虎丸は豪炎寺の肩からクーラーボックスを奪い取って、宿舎へと駆けて行ってしまった。軽くなったはずの肩に何かが圧し掛かってくるようで、豪炎寺はぎゅうと唇を噛んだ。

虎丸が大きく見えたなんて、そんなことあるもんか。

そんなの知らない



―――
ボンゴレーノ麹さんリクエストの『虎豪♀』でした!どっちかというと虎丸からの矢印っぽくなってしまった気がしますが、豪炎寺さんも意識してるってことで。ていうか初めての白い虎丸…?

リクエストありがとうございました!

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