ファザーステップ(フリリク豪炎寺父子)

2011/01/22

 
豪炎寺が世界に旅立つ日が、いよいよ明日に迫っていた。
イナズマジャパンが世界大会本戦への出場を決めたファイアドラゴン戦。あの日、少しは近付いたと思われた豪炎寺父子の仲は、あれ以来全くの変化を見せなかった。豪炎寺が変わらず合宿所で生活していたというのもあるが、実際は二人ともが縮んだはずの距離を計りかねていたのだろう。

そして、そのまま時間が過ぎてしまった。

荷物をスーツケースに詰めながら、豪炎寺は静かに考えていた。
母が健在だったころ、小さな夕香の手を引いて母と父が一緒に試合を見に来てくれた日のことを。

その日は豪炎寺がレギュラーに昇格して初めての試合で、豪炎寺はその歳でただ一人、先輩たちに混じってプレイをすることになったのだ。
試合の空気と選ばれた嬉しさに興奮していた豪炎寺は、初出場で初得点をあげるという功績をあげ、ホイッスルが鳴るやいなや父に抱きついた。仕事で忙しかったはずなのに、休みを取ってやってきてくれたのだ。

「やったよ、父さん!」
「よくやったな、修也!」

抱き上げて笑ってくれた父の顔を、豪炎寺はまだ覚えている。

母が他界してからは昔のように笑わなくなってしまったけれど、あの日、自分の道を行けと言ってくれたときの顔は、あの頃に戻ったような感じがした。

した、のに。

豪炎寺の手が止まる。本棚に飾ってある家族写真をじっと見つめる瞳は、何を思っているのだろう、どこか寂しげな色をしている。
何の前触れもなく、部屋のドアが開いた。

「……暗いぞ」

いつの間にか陽は傾き、部屋は薄暗くなっていた。豪炎寺は振り返る。

「…お帰りなさい、父さん」
「明日か、出発は」
「はい」

それきり言葉が無くなり、父と子は夕暮れの光の中で時間を止める。沈黙に耐えられなくなった豪炎寺は荷物の整理を再開する。

「……帰りはいつになる」
「一応、結果に限らず閉会式まで滞在ということになっているので、二ヶ月は先のことになります」
「どうせ行くなら、結果を残してこい。悔いの残ることだけはするな」

豪炎寺はゆっくりと顔を上げた。その顔は驚きに満ちている。振り返ったが、父は既に立ち去ったあとだった。

「…ありがとう、父さん」

目を閉じて、豪炎寺は静かに呟く。まだまだぎこちないけれど、確かに縮まった距離。

いつかあの日のように笑ってくれるなら、たくさん話したいことがあるんだ、父さん。



―――
リクエストの『勝也と修也』です。この二人を書くなら韓国戦後だろうなと思っていたので、書けて楽しかったです。

リクエストありがとうございました!

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