不等号の先は動かない(フリリクブレイク組)

2011/01/03

 

「ラブレター?」

鬼道は眉をひそめる。豪炎寺は頷いた。
二人は今、教室にいる。円堂を待っているのだ。

「ふと気になったんだ。帝国時代はさぞや貰っていたんじゃないかと」
「嫌味か」
「純粋な疑問だ」

豪炎寺は両の人差し指で対角を押さえながらくるくると封筒を回す。この話の発端ともいうべきピンク色のそれは、可愛らしい字で宛名が書かれている。
豪炎寺くんへ。
開封されていない封筒を一瞥して、鬼道は口を開く。

「そこそこだ。平均値も知らないしな」
「そこそこ、な」
「引っ掛かる言い方をするな。そういうお前はどうなんだ」
「さあ。数えたこともない」

ぱ、と回転を止めると豪炎寺は封筒をカバンにしまう。意外と怠惰なところがあるのか、カバンの中は乱雑だった。適当に詰め込んだ封筒の端が折れる音がしたが、鬼道は何も言わないことにした。代わりの言葉を吐き出して。

「俺もだ」

豪炎寺はカバンの口を閉めると手持ちぶさたになった指を組む。円堂はまだ帰ってこない。

「それで、どうするんだ」
「何を?」
「告白に決まっているだろう」

ああ、と豪炎寺は呟いた。あからさまに興味が無い素振りから、答えは明白だ。名も顔も知らない女子が少しだけ気の毒になったが、自分も同じ答えを返すだろうと鬼道は思った。

「好きな子とかいないのか」
「その言葉、そっくりそのまま返す」

間髪を入れず返ってきた声に、鬼道は苦笑を禁じえなかった。

「だろうな。じゃあタイプは?」
「夕香のことを大事にしてくれるなら。ああ、でも浦部みたいなタイプはちょっと、な」
「それは俺もだ」

豪炎寺の苦笑に鬼道も同調する。
浦部の賑やかを通り越したテンションはある意味尊敬に値する。が、ついていけない。鬼道も豪炎寺も、ああいった賑やかさとは今まで縁がなかったため、どうしても引いてしまいがちになる。
振り回されがちだが、一之瀬はよく相手が出来ると感動するくらいだ。

「木野みたいな子を彼女にするやつは幸せだろうな」
「ああ。春奈はもう少し落ち着きがあればいいんだが」
「そうか?音無は今のままでも十分いい子だと思うぞ」
「お前でも渡さん」
「別にそんなつもりはない」
「雷門はどうだ」
「意外と風丸のようなやつと付き合ったりしてな」

暇潰しのための他愛ない話のつもりが、徐々に盛り上がっていく。やはり彼らも年頃の男子だ、そういったことに興味がないわけではないのだ。
がらりと扉が開く。

「待たせて悪かった!」

飛び込んできた円堂に、目配せし合った二人が問いかける。

「円堂、好きな子はいるか?」
「好きなやつ?えーと、サッカーしてるやつはみんな好きだぜ!」
「やはりな」
「だろうと思ったよ」
「え、何がだ?」

理解できていない円堂をよそに、鬼道と豪炎寺は笑いを交わす。カバンを肩にかけて席を立った。

「なんでもない。特訓、いくんだろ」
「早くしないと時間が減るぞ」
「そうだった!行くぞ、二人とも!」

サッカー以外が一番にくることは当分無さそうだ、という結論を確かめるのは、ずっと未来の話である。



―――
リクエストの『ブレイク組でボーイズトーク』でした。ブレイク組のはずが円堂さんの出番がほんのわずかになってしまったのですが、彼に恋愛話は無理でした。
でも楽しく書けました。

リクエストありがとうございました!

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