形なくとも(年齢操作風豪)

2010/11/25

 

深みのある青い髪をした青年と、真珠のように淡い色をした青年がテーブルを挟んで向かい合う。
端から見たら旧友との交友をあたためているように見えるが、その実二人の関係は少し違う。確かに中学の頃からの付き合いだが、彼らの間にあるのは男女のそれと同じである。
もちろん隠しているし、知られてもいない。しかし、確かにそういった関係なのだ。
今はそれぞれ選んだ道が忙しく、月に二度の食事が逢瀬の代わりだ。今日がちょうどその日にあたり、少しだけいい店で二人は食事を楽しんでいた。

「なあ、豪炎寺」
「なんだ」

先ほどの名残で笑いを含んだままの声が返事をする。子供の頃に低めだったからか、豪炎寺の声は変声期を通りすぎても大きな変化はなかった。深みが増したぐらいだろうか。風丸の声はすっかり低くなったが。
フォークで肉をつつく。何度も注意したのに、風丸はそれをやめない。魚料理のときは跡形もなく崩してしまったというのに、だ。考え事をしているときの癖なのだろうが、行儀が悪い。豪炎寺が呆れたように口を開く。

「あのさ、結婚、しないか」

しかし、言葉を発したのは風丸が先だった。口を開いたまま、豪炎寺の顔が驚いたものに変わる。ちょっと間の抜けた表情だ。

「はは、やっぱ照れるな、こういうこと言うの」

風丸は照れくさそうに口元を綻ばせている。女性が見たら黄色い歓声が飛びそうだ。
事実、陸上界での彼の扱いは男性アイドル並だ。写真集が出たと聞いたときには、さすがの豪炎寺も大きな声を出したくらいである。
しかし、豪炎寺の表情は暗い。

「……無理だ、風丸」

呆然とした声で豪炎寺は言う。見開かれていたダークブラウンの瞳が悲しげに伏せられた。

「俺たちは結婚出来ない。男同士じゃないか」

それは、彼らの関係にいつだって付き纏う障害だった。本気で愛し合おうとも、二人が結ばれることは認められない。どちらも男である限り、彼らは普通の恋人のように祝福されることはないのだ。
豪炎寺はフォークを置いた。まだ皿に料理は残されているが、食が進まないようだ。風丸もフォークを置いた。テーブルの上で固く握られた豪炎寺の手に、そっと手を重ねる。

「別にいいじゃないか」
「……え?」
「別に、誰かに認めてもらわなくてもいい。俺たちだけの結婚式をしよう。二人のための約束を、しよう」

な?風丸が問いかける。強張ったままだった豪炎寺の顔が緩んでいく。

「小さな教会とか、いっそどこかの店でもいいんだ。俺たちが誓いを交わす場所さえあれば」
「素敵、かもな」
「だろう?指輪を用意して交換して、俺たちは秘密の結婚をするんだ」
「二人だけで」
「そう、二人だけで」

風丸も豪炎寺も笑う。重ねた手の指が絡み合う。誰にも見つからないようにそっと、優しい仕草で。



―――
風丸さんはキザなことも平気で出来る。きっと。

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