カタチアルモノ(年齢操作染豪)

2010/11/24

 

豪炎寺と染岡が同居を始めて数年の間に、二人の元にいくつかの招待状が届いた。友人からの、結婚式の知らせだった。
もちろん、どれも参列した。どうしても都合がつけられなかったものは、祝電と祝いの品を贈って、後で二人で会いに行った。

祝福される新郎新婦を羨ましいと思わなかったわけではない。どんなに互いを想い合っていたところで、染岡と豪炎寺は彼らのような証を残せない。
それどころか、知られてはならないのだ。大多数に知られた瞬間、二人は離別するしかない。
危うい線の上を、二人は歩いている。

「ほい」

手を出せと言われて差し出した豪炎寺の手の上に小さな箱が乗る。ベルベットか何かが張られた表面はすべらかな手触りで、青と藍の中間くらいの色と相まって上品な見た目だ。
答えを求めて染岡を見上げる。出会いの頃からあった身長の差は、成人してからしばらく経った今も変わらないままだ。むしろ少し開いたくらいか。
豪炎寺の視線を受け止めて、染岡は箱を開けるように促した。

「何が入っているんだ?」
「開けりゃ分かる」

ぶっきらぼうな返事を気にすることもなく、豪炎寺は言われた通りに小箱を開けた。
細身のシルバーリングが中央できらりと光る。箱から予想しなかったわけではないが、実際に見て豪炎寺は呆気に取られる。

「……今日は別に記念日でもなんでもないだろう?」

染岡はうーだのあーだの唸る。確実に意思の疎通はできていない。何年経とうとも、二人は不器用なままだった。

「その、なんだ、ちゃんと出来ねえけど、これぐらいならっつーか、なんつーか」

ごにょごにょと口ごもる。照れ隠しに頬を掻く仕草は見慣れたものだが、染岡の武骨な左手に光る銀色を見つけて豪炎寺は、あ、と呟いた。薬指にはまるそれは、小箱の中のものと同じに見える。というより、同じものだ。
手のひらの中のリングに豪炎寺は視線を戻す。外側には装飾は施されていないが、よく見ると内側に控えめな石と、何かが彫りこまれている。その文字を読み取った豪炎寺は顔を上げると、染岡にぶつかるように抱き付いた。

「お、おい!」
「……これ」

肩口に額をあて、豪炎寺がか細く言葉を落とす。聞き取るために静かになった染岡の手に、どちらかと言えば細い豪炎寺の手が触れる。

「ペア、だよな」
「……おう」
「染岡が選んで、作ってもらったんだよな」
「ああ」

ほう、と息が吐き出される。

「嬉しい」

囁くように紡がれた声に色があるなら、きっと柔らかいピンクオレンジだろう。
豪炎寺のうなじをそっと手で包み、頬を寄せる。ほんのりと赤く染まった耳が愛しい。

「ありがとう」
「ずっと持ってろよ」
「絶対大事にする」

リングの中のダイヤがちかりと光った。

『R to S』
(竜吾から修也へ)



―――
豪炎寺さんを幸せにするのは染岡さんだと思う。マジで。

戻る




×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -