赤が僕らを切り裂くのなら(南→豪)

2010/11/11



なんとなく、会いたくなっただけだった。
これから日本を離れなきゃならなくなるのかと思うと少し感傷的になって、ちょっと顔が見たくなった。

日本を離れること自体は、それほど気にすることでもなかった。与えられたチャンスのほうが重要だと思ったし、しがみつくような思い出もない。むしろ清々した。
だけど、嫌な記憶の中で、心踊らせたものがあったことが気にかかって。

言いたいことはいっぱいあったんだ。
「あのときはごめんな」とか、「元気だったか?」とか、「俺も世界に行くんだぜ」とか。
どうでもいいようなことばかりだったけど、本当は何か話をしたかっただけで、内容はどうでもよかった。会いたかった。声を聞きたかった。ただそれだけだった。

なのに、俺の足はぴくりとも動かない。豪炎寺は小さな女の子と遊んでいた。ピンクのワンピース。あれが妹なのかもしれない。顔がよく似てる。二人とも笑ってる。楽しそうだ。
あれがきょうだいだ。本当の、本物のきょうだいだ。

血が繋がってなくてもきょうだいだとあの人は言ったけど、俺たちのいびつさといったらどうだ。継ぎ接ぎだけで作られた円はガタガタだ。うまく回れなくてぎしぎしと軋んだ音を立てる。
あんなふうに笑えるようになるにはどれだけかかるかも分からない。笑いたいのかも分からない。

この感情の名前を、俺は知っている。羨ましいんだ、俺は。

そう思ったら、言葉が全部すっとんでしまった。頭の中で何度も繰り返したはずの言葉が全部。

もう帰ろう。すぐに荷造りをして、韓国に行くんだ。フィールドで会うときにたくさん話をしよう。それまで話したいこと全部、溜めておくことにして。





「お兄ちゃん、どうしたの?」

豪炎寺は振り返った。ぱらぱらと人が歩いている道路に、さっき感じた気配はない。

「誰かいた気がしたんだが……」
「だぁれ?」
「分からない、知っているやつだと思う」
「お兄ちゃんヘンなのー」

誰とはっきり言うことは出来ないが、なんとなく豪炎寺はその気配の持ち主を知っている気がする。
灼けつくような熱さの、鋭い眼差しのそのひとを。

「それよりお兄ちゃん、あそびのつづきー」
「ああ、悪い。いくぞ、夕香」



赤が僕らを切り裂くのなら
僕らを結びつけるのもまた、赤



―――
チャットで話した南雲と豪炎寺の話。あらすじというか、あの流れしかなかったので短い。もう少し煮詰めたらよかったのかもしれないけど、方向がずれそうだったので。
まあ、実際はアニメもゲームも交流はなかったんですがね!


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