初恋のジンクスを打ち破れ!(立豪♀)

2010/11/08

 
フットボールフロンティアが終わってから、雷門中には試合の申し込みが殺到した。
そのうちの一つの陽花戸中は九州という遠方からだったが、キャプテンの円堂の祖父の故郷であること、将来が有望なキーパーがいることがあり、一も二もなく引き受けた。
対外的なものではあるが、公式戦ではないので豪炎寺も試合に出られる。向こうとしても強い選手との対決はキーパーを育てることになるので、彼女の存在は是非もないという話だった。
以来、片手では済まないほど試合を行っている。

この日も練習にしては白熱した試合が決着を見て、帰りの時間までをそれぞれ自由に過ごしていた。
豪炎寺も軽くストレッチを終わらせると、陽花戸のキャプテンとフォワード同士の会話に花を咲かせていた。

「あの技は空中で体制を整えるのが難しいだろう?」
「そう。だから一番鍛えたのはバランスだった。他もそれなりに鍛えてあるけど」
「どうやって思い付いたんだ?」
「どうって、説明するのは難しいな。勢いをつけて足を振ると、威力が増すだろう?それをどんどんランクアップさせたらああなった」
「なるほど。でも普通はあそこまで回れないよ。豪炎寺さんはよっぽど三半規管が強いんだな」

戸田が笑いかけるので、豪炎寺も何も言わずに笑みだけを返す。
このキャプテンは円堂のようにカリスマ性があるというわけではないが、視野が広く、穏やかな人柄で、話していると楽しい。何より、豪炎寺の話を聞いたとき、誰よりも先に賛成してくれたというのが彼女には嬉しかった。女子というだけで実力も見てくれずに拒むものが多い中、是非にと言ってくれたのは彼らが最初だったから。
そのためというわけではないが、陽花戸中からの練習試合の申し込みは優先されやすい傾向にある。円堂が『彼』に関心があるというのも関係しているとは思うが。

「それにしても惜しいな」
「何が?」

ぽつりと戸田が零した言葉に首を傾げると、少し困ったような顔をする。

「雷門と陽花戸が遠すぎるから、あまり頻繁に試合をお願いできないだろ?」
「ああ、確かに」
「それと、豪炎寺さんが本当にチームの大事な一員すぎて、引き抜きなんかできそうにないっていうのがね」

肩をすくめてそう言ってみせる戸田は笑っている。一瞬驚いた顔をした豪炎寺だったが、照れくさそうに頬を染め、笑った。冗談でも本気でも、嬉しいことに変わりない。
なんとなく、世間一般で言ういい雰囲気を醸し出す二人に、これまた世間一般で言うお邪魔が入る。

「あ、あの、豪炎寺さん!」

緊張した面持ちで現れたのは、戸田の後輩の立向居。ミッドフィールダーからゴールキーパーへと異例のポジションチェンジを果たした、可能性に満ちた少年。間接的に円堂の後輩にあたる『彼』だ。

「どうかしたか、立向居」

豪炎寺が柔らかく問いかけると、子供らしいラインの頬を赤く染める。戸田は面白いとでもいうように目を細めた。

「あの、えっと」
「うん」
「その、ですね」
「うん」

もじもじと指をこねくり回しながら口ごもる立向居に、豪炎寺は微笑しながら先を促す。その表情は弟を見守る姉のようだ。

「このあとって、予定とかありますか?」
「このあと?」
「あ、予定があるならいいんです!そうじゃなくておヒマなら陽花戸の周りとかご案内しようかなと思っただけで、別に急ぎの用とかじゃなくて俺の単なる思い付きで」

焦ったように早口で言い募る立向居に苦笑しながらも、戸田は助け船を出す。

「立向居、それじゃ豪炎寺さんも答えられないだろ。深呼吸してみたらどうだ」
「は、はい!すみません!」

立向居は大きく深呼吸を繰り返す。その姿がどうにも可笑しくて、豪炎寺はくすりと笑った。微かな吐息だけの笑い声は、幸いにも誰にも気付かれることなく空気の中へ溶けた。
深呼吸が本当に効いてきたのか、今度は立向居もずいぶんと落ち着いていた。

「綺麗な景色のところがあるんです。豪炎寺さんを案内したくて」

どうですか、不安げに立向居は尋ねる。試合のとき以外、この少年はいつも自信なさそうにしている。気が弱いというより、優しすぎるのだろう。眉を下げた顔を見て豪炎寺は深く息をついた。

「ないよ」
「え」
「予定はない。だから、案内してくれないか?」

豪炎寺が言うと、一拍遅れて立向居の顔が喜びで輝く。子供らしい表情に彼女も微笑みを返す。

「着替えてくるからちょっと待っててくれ」
「はい!あ、じゃあ俺は校門のところにいますね」
「分かった。戸田さん、それじゃ失礼します。今日は本当にありがとうございました」
「いや、こちらこそありがとう。この町を楽しんでってくれ」
「はい」

会釈をすると豪炎寺はイナズマキャラバンへ向かった。立向居もグローブなどを片付けに走る。戸田は肩をすくめた。

「後輩の恋路の応援も楽じゃないな」


―――
しばらく止まっていた立豪♀です。三ヶ月以上放置だったぜ……。この後に風待ち月の花嫁でも、更にもう一段階あってもありかな。
ちなみにこの豪炎寺♀は鬼道さんに意地悪されてるほうのとは別軸なので関連は無いです。綱海とのやつもそう。

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