水曜日は雷が鳴った(砂+豪)

2010/09/22

 

砂木沼に連れられ、豪炎寺はお日さま園の中を歩いていた。瞳子は用があるとかで出掛けてしまった。どうしたものかと考えたところで何もできないので、大人しく説明を聞きながら時折相槌を打つ。

「一部屋は三人か四人だ。大体、年齢ごとに分けられている」
「チームごとに固まってたりはしないのか?」
「その傾向は少なくないが、一概にそうというわけではない」

そうか、豪炎寺は頷いて言葉が途切れる。もう何度も迎えた沈黙だったが、その度に二人は無理に言葉を続けることはなく、並んで園の中を進むばかりだった。
階段を上がる最中、砂木沼が数段上で立ち止まった。豪炎寺も止まる。元々の身長差に加えての高さに、見上げるのは少々骨が折れる。長い黒髪を眺める。

「あの試合」

低い声が呟く。

「負けた試合だ」
「……ああ、ジ・エンパイア戦のことか」

赤い瞳が豪炎寺のほうを向いた。改めて見ると綺麗な色をしている。鬼道のそれよりは少し深い色だ。

「情けなかったな。お前たちは円堂や鬼道がいなければ勝てないのか」
「悔しいが、あの時の俺たちは力が足りなかった」
「今ならば負けることはないと?忘れるな、お前たちは負けた、その事実があるのだ」

砂木沼は豪炎寺を見下ろす。かち合う視線は静かに反発し合う。二人の間にある距離が永遠のもののように思える、沈黙。
砂木沼の向こうに見える踊り場の窓から光が射し込んでいる。眩しさと首の疲れに、豪炎寺が顔を下に向けた。残像が砂木沼の影に重なってちらちらと光る。目の機能がゆっくりと回復するのを待ち、豪炎寺は顔を上げた。

「……その通りだ。俺たちは負けた」
「私たちに無様な姿を見せた」
「済まなかった」

砂木沼が鼻を鳴らして前を向く。豪炎寺はまた黒髪を眺めることになった。ようやく、足が動く。

「勝者は敗者に負ける姿を見せてはならない。敗者のために勝つ責があるからだ」

ぎしりと階段が悲鳴を上げた。中身のない段が気の抜けた音をたてる。

「次はないぞ」

豪炎寺はああとだけ呟いた。



―――
治さんと豪炎寺。

戻る




×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -