火曜日は曇りになった(瞳+豪)

2010/09/21

 

じっと見下ろされる。沈黙は嫌いではない。苦手でもない。それでもそこには時間、場所、状況といった、条件が揃わないと問題が生じる。そして現在は最悪の条件が揃っている。なんて居心地の悪さだ。
しかし目を逸らすこともできずに、豪炎寺はその人を見上げる。

「あの、瞳子監督」

彼女の肩がぴくりと揺れる。

「お久しぶりです」
「ええ、久しぶりね。優勝おめでとう。世界一ね」
「ありがとうございます」

両者の表情が和らぐ。夜の空のようにほのかに青い瞳がまるく歪む。優しさの混じった視線を受け止めて、豪炎寺も微笑んだ。

「あなたが監督と呼んでくれて、改めて思ったわ。わたしもあの場所に行きたかった」

豪炎寺ははい、とだけ返す。彼女の表情が遠くを見つめるものにすりかわる。
共に旅し、戦い続けた日々は既に思い出の小箱の中。幾重にも重ねた記録紙に埋もれつつある。

「あなたたちと、ちゃんと監督と選手として向き合いたかった」
「監督はちゃんと俺たちの監督でした」
「ありがとう。でも、わたしはあなたたちと喜びや悔しさを分かち合えなかったから」

揺らがないために自身に厳しくしていたことを悔やむつもりはない。
けれど、もしもを考えなかったわけではないのだ。もしも、もっと彼らの心に近づけたなら。もしも、あそこまで頑なでなければ。
もしも、もっと普通に出会えていたのなら。
変えようのない現実だった。今さら変えられない事実だった。いつだって最良を選択できるわけではない。そう思っているけれど。
彼女のきつく握られた手に少し温度の低い指先が一瞬触れて、火傷したかのように引かれる。豪炎寺はその煤竹色の瞳で真っ直ぐに見つめている。あの時も、こんな目をしていた気がする。

「次が、あります。次の大会が。そのときに、監督の座を久遠監督から奪えばいい」

思わず笑ってしまいたくなるような子供の理論。けれど、これ以上にない正論。
豪炎寺の視線を、瞳子は真っ直ぐ受け止めた。

「……そうね。次があるわ。いま三年の子たちが誕生日を迎える前に来てもらいたいところだけど」

我が儘かしらね、そう言って彼女は笑うから、豪炎寺は黙って小さく首を振るのだった。

「そうだ、ここのことを案内させるわ。砂木沼くん、ちょっと」
「え」

そして対峙した人物を、豪炎寺はまた見上げることになるのである。



―――
瞳子さんも悔しかっただろうなと思った。
明日に続く!



二週間経ったのでアンケートを下げさせていただきました。ご協力ありがとうございました!

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