二十億光年の孤独(鬼→豪)

2010/09/18

 
人間が他者との間に無意識のうちに引いているラインがあり、その内側の領域をパーソナルスペースという。
心理学の用語の一つだが、別に難しいものというわけではない。他人が近付くのをどこまで許せるかという話だ。

人となりを知らなければ作戦を組み立てられないという持論から、鬼道は人間観察をするのが癖になった。パーソナルスペースからもその性格が読み取れるので、雷門サッカー部全員の領域は把握済みだ。円堂はさすがと言うべきか、一番、領域が狭かった。誰でも受け入れる性格をしているのだ、当然だろう。
逆に一番広い領域の持ち主は豪炎寺だった。前後左右、ほぼ円を描くように展開された領域の広さに、豪炎寺修也という一人の少年の道筋を思う。
不可侵領域の広さは警戒心の強さに比例する。他者を信用せず、信頼せず、生きてきたことの証だ。
経験が豪炎寺を頑なにした。孤独が少年を淋しいものにした。自分のものよりも広いそのスペースが、少し、悲しかった。

哀れむことのできる立場ではない。自らも似たような境遇にいた。
しかし、人を拒むなどあんまりだ。世界にはこんなにも人が溢れているというのに。
全てが害なすわけでなく、全てが仇なすわけでないというのに、豪炎寺にとって、世界は味方と呼べないのだ。
豪炎寺は自分たちのことすら、まだ完全に受け入れたわけではないのだ。

そう思うと、広いパーソナルスペースの外周から彼への距離が、そのまま大きな溝として間に横たわっているような気がして、鬼道は淋しくなった。

子供らしさの抜けきらないほっそりとした顔は、時折ひどく冷たい表情になる。
いや、冷たいという言葉には語弊がある。温度がなくなるのだ。一切の感情が消え失せ、まるで何も無いかのような顔をするのである。それはほんの一瞬の出来事でしかなく、瞬きをした次の瞬間にはいつもの涼しげな表情にすり替わっている。
けれど、鬼道にはその一瞬の表情が彼の孤独の形のようで、深く深く刻みつけられている。

「豪炎寺」

少し離れた位置から彼を呼ぶ。格別通る声というわけでもなく、かといって張り上げたわけでもないのに、豪炎寺は振り返った。

「なんだ、鬼道」

恐らく、彼の神経は常に鋭敏化されているのだろう。何があっても即座に反応できるように。そうでなければならなかった。

何がそうさせた?

「……いや、大したことじゃない。後で話そう」
「そうか」

怪訝そうな顔をしたが、それ以上追及してこない。それが豪炎寺の求める距離で、豪炎寺の心地良い距離なのだ。
鬼道はゆるく首を振った。まるで銀河を旅しているようだ。果てがない。きっと彼は、自分の孤独に気付いてすらいないのだろう。

なんて、最低の喜劇だ。



―――
豪炎寺さんはきっと警戒心強いと思って。

ゲームショウ行きたかったなあ……。

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