♯隣は何をした人ぞ(未来パロ)

2010/08/22

これの続きです。
相変わらずオリキャラ注意報発令中です。






「マジでか」

うっかり呟いた。幸いにも誰も聞いてなかったようだが、聞かれてもさほど困る内容ではないから大丈夫といえば大丈夫である。むしろこのたった一言で全てを悟ることができる人間がいたら、それはもう既に超能力者とかそういった類のトンデモ人間なのだと思う。
脱線した。
うっかり呟いてしまったのには訳がある。この春から東京の大学に進学して、憧れのトーキョーキャンパスライフを満喫するところである俺は、家賃を浮かせるためにルームシェアというやつをやっている。親が仕送りをしてくれるといっても、やっぱり大学生じゃいろいろ無理がある。でも同居人と等分すれば少ない家賃でいいところに住めるというわけだ。最初に考えた人は金銭感覚がしっかりしていたんだろう。
で、ルームシェアをしているからには同居人がいるわけだが、とんだ偶然かはたまた神の悪戯かは分からないが、その同居人と同じ学部で教養科目のクラスが同じだということが今日この日、判明したのである。
とりあえずおまけに言っておくとしよう。

「マジでか」



入学式の時点で既にいくつかのグループができている。仲良し受験のものや席が隣だったから意気投合しただけのものまで、よりどりみどりだ。とりあえずのグループ入りを果たして、これから俺の楽しい大学生活が始まるのだと心を躍らせる。
俺が入ったグループは元スポーツ系の部活出身者が多く、実は野球部だった俺が馴染むのは早かった。

「そういえば、知ってるか」

口火を切ったのは高校時代はサッカーに明け暮れていたというやつだった。おしゃべり好きな辺り、準レギュラーどまりだったんじゃないだろうか。かくいう俺は代走が多かった。

「あの豪炎寺がこの大学にいるらしい」
「マジ？」
「噂だろ」
「でもどこのクラブチームにも入ってないから有り得ないことじゃないよな」

豪炎寺。よくある苗字とは言いがたいから、きっと俺の同居人のことなんだろう。しかし『あの』という冠詞がつくのはどういうことだろうか。口を挟む間もなく話はどんどん先へと進んでいく。

「高校在学中からいろんなところからオファーがきたって話だぜ」
「俺は中学卒業と同時にスカウトが殺到したって聞いたけどな」
「まあ伝説のイナズマイレブンのひとりだもんなー」
「円堂はもうプロだっけ？世界が違うよな」
「実力が違うんだよ」

イナズマイレブン。聞き覚えがある。たかが中学の弱小サッカー部に過ぎなかった選手たちが、全国大会優勝を皮切りに、大きな陰謀をつぶしたり世界大会で優勝したりと伝説を打ち立てたという、まさしく別世界の話だ。
まさかな。そういった荷物があったようには見えなかったし、わざわざ教育学部を選ぶ理由が分からない。が。が。

「……なあ、その豪炎寺の下の名前ってなんだったっけ」
「えーと、しゅう……」
「修也じゃなかったっけか？」
「あーそう、それそれ！豪炎寺修也だ！」

ビンゴ。ど真ん中ストライク、ホームラン、ハットトリック、決勝ゴール、ブザービート。なんてこった。同居人は超有名人なのか。
本日三度目の一言。

「マジでか」



結局、同居人がその『豪炎寺修也』であるということは言わなかった。タイミングを逃したのもあるが、なぜだか言うことを憚られたのだ。踏み込まないというルールを決めてしまったからかもしれない。まあそんなことはどうでもいい。

「おーい、豪炎寺ー」

色素の薄い髪が見えるので声をかける。振り返った顔はあの整ったもので、まああの髪型の人間がそう何人もいるとは思わないが、間違っていなかったということでそっと胸を撫で下ろす。

「どうせ同じ部屋だし、一緒に帰ろうぜ」
「ああ。かまわない」

姿勢良く歩く姿は言われてみれば確かにスポーツをしていた者のそれで、すらりと伸びた身長と相まってなんというか、美しい。周囲の女の子の熱い視線が突き刺さっているのが分かる。羨ましいぜこんちくしょう。

「あ」
「あ？」
「夕飯の買出しに行きたい」
「コンビニ弁当でいいんじゃねえの？」

豪炎寺がこっちを向いた。切れ長の目がじっと見つめてくる。じっと真っ直ぐに。
うん、俺が悪かった。身体に悪いよな。不摂生は後から祟るんだもんな。

「……付き合う」
「そうか」

スーパーの袋を提げて歩く隣の男が大層な奴には俺にはどうしても見えなかったので、とりあえず同居人で落ち着くことにした。
いいじゃねえか、俺も豪炎寺も人間。つまりはそういうことだろ。
フライパンなども詰め込んだ買い物袋は重かった。



―――
ヘリクリサムシリーズ第二段。Aくんにとっての豪炎寺はこの時点ではつかみにくくて取っ付きにくいただの同居人。
慣れていくと小話みたいな関係になる。あれは二年ぐらい経ってると思う。


ピクシブというやつに登録してみました。絵は描かないけど、たくさん豪炎寺さんがいてウハウハしました。パラダイス……！

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