異邦人(ロココと豪炎寺)

2010/08/20

 

キミのことはよく知らないけれど、キミの友達のことはよく知ってるよ。
ボクの師匠の孫のマモルのことはね。
そう言って人懐こそうに笑った少年の名はロココ・ウルパ。ライオコット島で出会った、サッカーを愛しすぎてとり憑かれてしまった円堂の血に、呪いをかけられた子供。

「奇遇だな、俺もお前をよく知らない」
「そうだね、ついこの間が初めましてだったわけだし」
「でも」
「でも?」
「初めてという気はしなかった。そしてそれが不思議じゃない」

飄々と言ってのける豪炎寺は、自身の言葉の意味を深く考えていない。それはもはや感覚で理解したことだったからである。
ロココはきょとんとしたが、すぐに笑顔をつくった。彼の笑顔はごく自然につくられる。

「ボクも。キミ、ゴーシュに似てるよ、ちょっとだけだけど」
「ほんの少し、な。ロココは少しも似ていない。サッカーが好きで真っ直ぐだけど、それだけだ。円堂とは全くの別人だ」
「キミ、すごくはっきり言うなあ。その通りなんだけどね」

あはは、頭に手をやりロココは笑う。もともとの色に加えて陽に焼けて濃さを増した肌には、無数の傷痕が出来てはふさがった跡が窺えた。瑠璃紺の髪が光の加減で青く見える。豪炎寺はかすかに目を細めた。
ロココという少年を計りかねている。親しげに声をかけてきたけれど、 先ほど交わした言葉のように互いによく知らない相手だ。話しかけて何か得られるかと問われれば悩んでしまいそうなほど、関係としては遠い。
しかし。これもまた必定の出会いだったのだろう。世界は自分たちの知らないところで回り、巡り、進み、変わっていくのだから。

「ねえ、やっぱり師匠はキミたちと行ってしまうの?」
「自分で聞けばいいだろう。今まで一度も会ったことのなかった円堂よりも、ずっと一緒にいたお前のほうが話をしやすいんじゃないのか」
「……本当にキミはすごくはっきりと言うよね」

一瞬寂しげに、でも何事もなかったようにロココは笑った。豪炎寺は言葉を重ねる。

「選ぶのはお前の師匠だ。俺には分からない。決められるのはその人だけだ」
「その通りだけど、その通りすぎて怖いよ」
「一つ、日本の言葉をお前に教える」

豪炎寺の瞳の色は少し、ロココの師匠の、円堂大介の瞳に似ている。その孫のほうがもっと似ているのだろうけれど、確認する気にはなれなかった。
色素のほとんどないような髪とは正反対の、黒。

「一期一会、という言葉だ」
「イチゴイチエ?」
「人の一生の中で、すれ違った人とまた会えることはないだろう。だから出会ったことは大切なことだ、という意味らしい」
「短い言葉なのに意味はいっぱいなんだね」
「そうだな。俺たちはお前の人生を通りすぎる。お前たちも俺の人生を通りすぎていく。それを通りすぎただけのこととするか、広げていくのか、どうしたい?」
「どうって」
「選ぶのは、自分だ」

既視感。真っ直ぐな、突き刺さるような瞳。
ロココはじっと豪炎寺を見つめた。凪いだ海のように静かな目をしていた。
雨がふる。



―――
謎な組み合わせシリーズ第3段。
ロココなら円堂なんだろうけど、ちょっと書きたかった。

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