指先に紅色(不豪)

2010/08/10

(グッナイ、ベイビーの流れで)



息を詰める音が聞こえて、不動は顔を上げた。寝転んだベッドから首だけを机のほうに向ける。優しい光の色をした髪がしっとりと濡れ、力なく顔にかかっている。いつも逆立っているので、少し新鮮だ。

「どうかしたのかよ」

ノートに向かう豪炎寺の柳眉に皺が寄っている。じっと下を見つめる横顔が、髪型のせいか普段よりも幼い。
不動はもう一度声をかけた。

「おい、聞いてんのか」
「……え、ああ、なんだ」

豪炎寺が頭を上げた。軽く動かして首をほぐすと不動を見る。全く普段と変わらない顔をしている。平然と、何事もなかったように。
不動は身体を起こした。ベッドから億劫そうに降りて立ち上がる。

「またどっか分かんないのか?」
「いや、もう終わった」
「合ってるか見てやるよ」

首にかけたままだったタオルを放り投げて、不動は机に歩み寄る。覗き込もうとすると、豪炎寺は左手でノートを閉じた。

「なんだよ」
「別に、今回は不安なところはない」
「そう言ってこないだは計算間違えてただろ」
「いいんだ」

右手を握ったまま豪炎寺は立ち上がる。不動が苛立ったように顔を歪める。

「少し出てく。好きにしてていい」

そのまま扉へ向かおうとした豪炎寺の腕を不動が掴んだ。

「おい、勝手なこと言ってんじゃねえよ」

ぎり、と力がこもる。豪炎寺が顔を歪める。
と、不動が何かに気付いた。

「ケガしてんのか」

掴んだ右腕の頑なに握られた拳が、何故か人差し指だけゆるい。よく見ると、赤く小さな玉が指先についている。
豪炎寺が溜息をつき、力を抜いた。

「……ノートで切ったらしい。消毒してこようと思ったんだ」
「別にこんぐらい平気だろ。紙の傷はすぐふさがるし」
「でも」

豪炎寺が振り返る。髪が下りているせいか、やはり幼い。

「気にしすぎなんだよ。舐めときゃ治んだろ」

言って不動はおもむろに豪炎寺の指を口に含んだ。生暖かい咥内に包まれて、思わず背中が粟立つ。傷を舌がなぞる。ぴり、と痛みがはしって、指が強張った。
不動が楽しげに笑う。何故だか、部屋が暑い気がした。



指先に紅色



―――
不動は数学とか得意そうなので、豪炎寺に教えてたら面白いと思った。
この話の不動は入り浸りすぎるだろ。

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